『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』英語版制作進捗+論考

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※noteに有料記事としてアップしたものと同じ内容です。アーカイヴ目的の記事ではないので、資料室ではなくこちらにて公開。『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』はDU BOOKSさまより発売中です。まだの方は是非・・・。
以下目次。
・2020年代-:ラディカル・インディヴィデュアリズム
・10年代-00年代:ロマンス、ノスタルジー、憑在論
・90年代:はぐれニューエイジ・トラヴェラー
・80年代:ポストパンク・コモン
・60年代-70年代:動乱の時代の索引としてのNWWリスト
・活動支援募集

英語版制作心得

『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』(以下『評伝』)のために取材した人数は30を超えている。多くが西ヨーロッパの英語圏に暮らしている人たちで、日本語が読める人はいないといってよい。よって、英語版が完成して初めて取材対象者たちへの御返しとなる。並行していろいろやっているうちにそれなりに時間が経ってしまった。不器用な人間で申し訳ない。しかし、言い訳がましく聞こえてしまうが、何分初めての作業が多く、どうしても時間がかかってしまう。たとえば英訳は自分や周囲の人間で進めているが、あくまで下訳の域を出ないことがわかっているため、版元(まだ契約に至っていないので、どこになるかまではお教えできない)などを介して知識あるネイティブライターの助けを借りることとなるだろう。

 Nurse With Woundの再評価または再考と呼ぶにも、NWWが過去に評価された機会はほぼない。『評伝』日本語版を書くうえでは、NWW含めた秘教的繋がりを記すという目的もあったため、周辺の人物たちを極力登場させた。デヴィット・キーナン『England’s Hidden Reverse』といった書籍が邦訳されていない状況ゆえにそれは必要なことであったと思っている。
 では『England’s Hidden Reverse』のような書籍が出て、『WIRE』といった音楽雑誌でも時おりNWWが登場する英語圏ではどうか。『England’s Hidden Reverse』はどちらかというとCurrent 93やCOILの本である向きが強かったし、(『評伝』出版以降に出た本ではあるが)ポール・ヘガティ『Annihilating Noise』(2021)のように芸術論の一サンプルとして取り上げられるくらいのものであった。よって、英語圏でもNWWことスティーヴン・ステイプルトン個人の情報と事実に即した内容の記述が必要とされていると日々感じている。日本語版を書いている時のように、ひたすらに出来事の記述を充実させねばならない。
 『評伝』でも気を付けたことなのだが、ナース・ウィズ・ウーンド(NWW)ことスティーヴン・ステイプルトンのヒストリーとなると、特定の「シーン」や「ジャンル」というレンズを通して彼を覗くことについて慎重になる。ステイプルトン本人は「秘境」「神秘主義「オカルティズム」という視線を送られることに田尾そて消極的、いや否定しているといってもよいからだ。『England’s Hidden Reverse』が本全体で指摘する秘教的サークルという前提については、「友人同士の繋がりがあっただけであり、ジャーナリストが本を書くために”シーン”といったものを作り上げただけ」(『BIG-TAKE OVER』より)とまで発言している。
彼がロンドン地下のエソテリックなシーン(Current 93、COILなどが出入りしていた)の中にいたのは紛れもない事実だが、彼個人が運動の推進力の中心にとなっていたかと言われると首肯はできない。正確に書くならば、多様な思想(異教復興運動者、ボディアーティスト、アナーコパンク、個人主義者など)がロンドンという都市の地上地下を行き交い、時として同じ場に存在していたという結果があっただけである。その不思議かつ豊潤な事実は、それだけで何冊もの本が書かれる価値がある。だが、筆者の目的はあくまでNWW史であるため、日本語版に詰めこんだエソテリック史の一部や論考めいた部分はオミットせざるを得なくなった。そこで出来た空白を補うのが、追加で得た、または新たな取材対象者から集めた証言であり、これと資料を併用してステイプルトンがいた時空間を立体的に描写していく。

 長くなったが、本記事は英語版の内容に「そぐわないと思って記述を控えた」、いわば論考的なテキストである。調査をしているうちに併読していた資料などが筆者の中で結びついて、NWWをいくつかの角度から論じた軌跡ともいえる。私生活や他の制作も大変なので、英語版出版成就までの支援を賜りたく有料に設定した。本記事の最後でも同様の記述があるため、購入した方も改めてお目通し願いたい。なおデータとしての年表はこちらで公開/随時更新している。


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