COILのリイシュー音源(2020年~)を知る、聴く、探る

ツイート

COILについて何か追加してほしいという声をいただいたので、無難ではあるが、かつて書いた記事の続きを。大半を未購入の身分で書くのも気が引けるが、あくまで情報として受け止めてもらいたい。

『Sara Dale's Sensual Massage』(INFINITE FOG PRODUCTIONS)
ほぼSleazyの仕事であるサウンドトラックの蔵出し。『Hellraiser』10インチ(またはコンピレーション『Unnatural History III』)に入っていたコマーシャル音楽と同系列といえば、マニアには話が早い。使われている楽器の音は『Angelic Conversation』と似た室内楽風のもので、晩年の作品に慣れた耳としては新鮮に聞こえる。ジャケットはスティーヴン・ステイプルトンによるもので、筆者が2017年にアイルランドへ取材しにいった時点でこの絵は完成していた。原画が電動のこぎり等とセットで壁に立てかけられていた記憶がある。

『A Prison Of Measured Time』(Old Europe Cafe)
ダニー・ハイドが制作に関与していた時代の未発表音源。トレント・レズナーのナッシング・スタジオで作業した後に録音されたようだ。「Heaven's Blade」は『Ape of Naples』の収録曲だが、この時点ですでに原型が出来上がっていた。とはいえ、『Ape~』バージョンが一番優れているという印象は変わらないし、マニアアイテムの域は出ていない。

『Musick To Play In The Dark』,『Musick To Play In The Dark vol.2』 (Dais)

ついに出た!シュトックハウゼン的なオカルトと電子音楽の融合が、今日エレクトロニカとカテゴライズされる当時の先端とオーバーラップした名作二枚(いくつかのエディションに付いてきたボーナスディスク収録曲は今回未収録)。レイヴの熱狂ではなく、その後の鎮静とバッドトリップから期せずして法悦めいた感覚を得たメンバーたちが、好機を逃すまいと思考を音楽に置換したドキュメント。クラックルノイズが弾ける「Paranoid Inlay」はHauntologyのパストラル派とクラブ派を接続する橋の一つだ。この時期からThighpaulsandraことティム・ルイスが音楽面を大々的にサポートし始める。アシュラ的なジャーマン・エレクトロニクスへの傾倒もうかがえるように、非ニューエイジ的な角度から宇宙を志向する態度は、やがてサン・ラー(『Black Antlers』収録の「Sex With Sun Ra」が良い例)へと到達する。

『Love's Secret Domain』(INFINITE FOG PRODUCTIONS, Wax Trax!)

ロシアのInfinite Fogと、かつてオリジナルを配給したこともあるWax Traxからのリリース。他のカタログと同様に、目玉はリマスタリングと未発表ミックスやデモテイクの収録である。音楽性はセカンド・サマー・オブ・ラヴによるサイケデリクスの再興とダンス・ミュージックの結婚をCOIL流に祝福したもので、もちろん必聴。しかし、Black Light Distrikt名義のアルバムと同じで、二つのレーベルから発売されるという面倒な事態になったので購入時は各版元で差異を確認した方がよい。IF版はジャケットを描いたスティーヴン・ステイプルトンが当時を振り返った文を寄稿しているため、筆者はこちらを購入した。

『The Ape Of Naples』,『The New Backwards (extended edition)』(INFINITE FOG PRODUCTIONS)

2005年の名作にして事実上ラストアルバムと、ジョン・バランス逝去後に残された素材をSleazyとティム・ルイスたちが再構築した作品がそれぞれ再発。二枚ともImportantが2016年に復刻していたが、このIFバージョンには蔵出し音源が追加されるほか、もはや恒例となった豪華版も生産された。リマスターと「Going Up」などの別テイクは興味深いが、さほど画期的な内容とは思えないのが本音。

Megalithomania! (Coil At Conway Hall) (Retractor)

2003年にリリースされたライヴ盤CD-Rで、ティム・ルイスを通した再発となった。オフィシャルというか、手元に音源があったから出せただけだと思うのだが、敬意のないブート再発よりはマシだろう。Black Sun Productionsのメンバーが参加している貴重な公演でもある。他にもルイスは、自身のサイト上で2002年のライヴ音源を公開しており、いずれもフリーダウンロードになっている。

『Constant Shallowness Leads To Evil』,『Queens of the Circulating Library』(Dais)

Daisが『Musick』シリーズの次に着手したのは、貝殻型ケースが可愛らしかった音響特化二部作。『Constant Shallowness Leads To Evil』の空き時間を埋め尽くすノイズトラック群「Tunnel Of Goats」は、1曲に統合されている。『Queens of the Circulating Library』はティム・ルイスの母親が歌っている珍しい編成。Time Machines名義のミニマルすぎる仕上がりや、晩年の歌曲としての洗練に飽食した人には、この揺らぎが心地よく響くと思う。新しいジャケットも音にピッタリ。


残るは『Black Antlers』とSome Bizarre時代のアルバム二枚といったところか。ちなみに、SleazyとCOHによるSoisongの音源も散発的に復刻されているので、気になる人は注視すべき。出版社Timelessからは、歴代アートワークなどを網羅した大全的一冊『The Universe is a Haunted House: COIL through their art & archives』も刊行された。


戻る

(23.1/31)

面白かったらサポート