Save the Venture Bros: カートゥーンアニメ『Venture Bros』打ち切り決定!

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"Unfortunately, it’s true: #VentureBros has been canceled. We got the highly disappointing news a few months ago, while we were writing what would have been season 8. We thank you, our amazing fans, for 17 years of your kind (and patient) attention. And, as always, We Love You."
[Jackson Public twitterより]

2020年9月8日、カートゥーンネットワーク(CNN)内の深夜帯・Adult Swim内で放映されている『Venture Bros』の打ち切りが原作者であるジャクソン・パブリックとドク・ハマーそれぞれのTwitterで発表された。投稿の数日前に、制作中のシーズン8が頓挫したと読める関係者の証言が記事になった矢先の出来事であった。ファンダム内の衝撃と動揺は1週間経った今でも収まることなく、Adult Swimがアップロードしている番組のダイジェスト動画の多くに打ち切りを嘆くコメントが寄せられている。
打ち切りの理由はいまだハッキリしていないが、CNNの親会社であるワーナー・メディアがCOVID-19のパンデミックで被った経済的ダメージが原因とファンは推測している。Adult SwimはTwitterで『Venture Bros』をあきらめていない旨の声明を出した。ワーナー・メディア傘下のストリーミング・サービス(HBOなど)に移行しての再開などの噂が出ているが、現時点で事態は進展していない。

Save The Venture Bros (Change.org)
有志によって番組の存続を希望する署名も立ち上げられた。

『リック&モーティ』のようなタイトルと比べてターゲット層が狭いせいか、『VB』が日本へ輸入されることはなかった(具体的な内容は後述)。メディアでも、本邦で『VB』を取り上げたものはなきに等しいと思う。
Adult Swimは日本のアニメ、それも対象年齢層が高めのものを多く放映していることでも知られており、中でも『カウボーイビバップ』は星の数ほどある『VB』のインスピレーション元の中では特別大きな存在だ。それだけに、日本に入ってこないまま、話題にならないまま不遇な作品として記憶されていくことは、日本在住の一ファンとして耐え難い。
よって今回は、雑然ながら『VB』を紹介したい。作品の認知や上の署名のシェアに少しでも貢献できればと思う。ネタバレ要素を含んでいることはご了承願いたい。

『VB』ってこんなアニメ

『VB』のアイデアはジャクソン・パブリックがアニメーション『The Tick』に脚本家として参加していた時期に生まれた。パブリックがシナリオの裏に書いた少年二人のスケッチ。これが後のヴェンチャー・ブラザーズ、ディーン&ハンク・ヴェンチャーとなる。パブリックの頭の中にはすでに自身の作品の構想が練られており、そのモチーフはハンナ・バーベラ制作の『ジョニー・クエスト』だった(日本でも『科学少年JQ』として輸入されていた)。幼いころに見ていた『ジョニー・クエスト』のモデルが1910年のSF小説『トム・スウィフト』だったことに気付いたパブリックは、『ジョニー・クエスト』を叩き台した自分だけのユニヴァースを練り始めた。少年たちとハイテクノロジー、冒険心に満ちた父親とあちこちからやってくるヴィランたち。これがそのまま『VB』の核となった。

筋書きはこうだ。天才科学者兼スーパーヒーローであるジョナス・ヴェンチャーの息子、ラスティは幼いころから父親の冒険に引っ張りまわされ、父親の死後も世界中のヴィラン(悪党)から狙われるようになった。父からスーパーサイエンスとヒーローとしての地位を受け継いだラスティは、自分と生まれたばかりの息子たちを守るためにボディガードのブロック・サムソンを雇う。ラスティをアーチ(宿敵)として狙い続けるヴィラン、マイティ・モナークとドクター・ガールフレンドのコンビたちの嫌がらせに耳をふさぎながら、ヴェンチャー兄弟は青春(失恋、ハロウィン、バンド結成、『イージーライダー』のラストシーン、特殊部隊入り、ミュータントとの足相撲など)を謳歌する。
シーズン2でヴェンチャー兄弟には大量のクローンが存在している事実が発覚し、実はそれまでに彼らは何回も死んでいたことが明かされる。

兄弟の片割れ、ディーンは自分たちがオリジナルの代替であることを知ってアイデンティティ・クライシスに苛まれるが、もう一人のハンクは、それを「アメリカン・コミックスのヒーロー的」と受け入れてディーンを諭す。ディーンは、兄弟(=同じクローン)のおかげで自己を確立する。人はなりたいものになれるし、何者であっても自分なのだと。
この内省的なテーマは、『VB』の主題として多くのキャラクターを介して描かれる。自分をバットマンと思い込むクセを持つハンクは、シーズン7最終回(現時点の最新シナリオ)で「ヴェンチャ一一家の人間」であることを忘れたまま、バットマンとしてニューヨークの喧騒へ消えていってしまう。制作中であったシーズン8はこの続きを描く予定だっただけに残念というほかない。
子供たちだけでなく、父親であるラスティとその宿敵・モナークも虫食いで自分たちの過去と対面する。とりわけモナークは、自分の父親がジョナス・ヴェンチャーの仲間であったことを知り、そこから自分とラスティの、つまりスーパーヒーローとヴィランという宿命的な関係そのものに疑念を抱く。彼はここで宿敵の息子たちと同じ「今までの人生は何だったの?」と頭を抱える。

ポップ・カルチャー総覧(騒乱)

『VB』をハンナ・バーベラのパロディ以上のものにしているのは、パブリックと共同原作者ドク・ハマーが抱く、ポップ・カルチャーへのオブセッションだ。彼らはシナリオを自らの青春時代にいた俳優や、音楽または映画からの引用で埋めつくす。劇中のセリフ一つからシークエンスまで、ジャーゴンとオマージュだけで構成されている時間は少なくない。個々の「ネタ」は他と対照的になることもあれば、本質的に重なることもある。
このツギハギのカルチャー観、付箋だらけのメモ帳を見せつけられる世界がポピュラリティを得にくくしているのは否めない。パブリックもシナリオの構成について「強固で奥深く、情報に満ちたもの。あちこちからジョークを拾い、スピードを落とさないようにする。二度見しなければいけないようなショー」と証言している。

『VB』がポップ・カルチャーの道化たち、ボウイを筆頭としたパフォーマーたちを大挙させていることは上で触れたテーマと無関係ではない。『VB』はポップ・カルチャーを多面体として捉えることを通しながら「自分(個人)とは何か」を問い続ける作品なのだ。
ボウイはどんな人間・動物にも変身できる能力を持つという設定でトリックスター的役割を演じる。『ジョニー・クエスト』をモチーフにした過去のヒーロー、アクション・ジョニーは過去の名声と裏腹に、老いぼれた余生を当時の宿敵との思い出話でやり過ごしている(ここは『ウォッチメン』的だ)。大富豪のヒーロー、キャプテン・サンシャインはマイケル・ジャクソンとバットマンを小児性愛者としてオーヴァーラップさせることで生まれた。オマケで作曲を担当しているJGサールウェルも、ジム・フィータスやクリント・ルインといったペルソナを使い分けていることで知られている。

エピソード単位の作品紹介や、作曲を担当しているJGサールウェルへのインタビューは弊誌『FEECO』の2号に掲載している。宣伝で終わってしまい恐縮だが、よければご一読を。


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(20. 9/16)

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