漫画家の清野とおるが東京は赤羽から離れることになった場合、どの街に住めばよいか?住むと決めるには何を基準にしたらよいかを考えつつ、次なる住処候補=スペアタウンを散策する漫画である。といっても街のディテール以上に、作者がそこでいかに過ごすかを提示する内容としたほうが正しい。つまり作者の価値観についていけることが前提となる。清野とおるの世界観(外界の認識のしかた、という意味)といえば酒・サウナ・小汚さの中年男性三大元素であるからして、ここを共有している人に向けたプレゼンであることは留意したい。そして、本を瞥見した時の第一印象でもあったのだが、サウナ上がりの一杯に癒される刹那的な人生を過ごす人でさえ、「今住んでいる街にいられなくなる」という想定がなされるくらいには日本社会が不安定だという見方もできる。異国への移住が街という単位にまで縮小されただけであり、居心地の良さとはそもそもどこからやってくるのか?という問いは、国外への移住が話題になり始めた10年代の中ごろ(体感)よりも普遍的になっている。後半の主題となる愛知県豊橋を舞台にしたエピソードも、県外どころか関東甲信越を抜け出しての移動であった。腰の重い人間にとってはこれだけで大きな一歩に感じることだろう。そういう意味でも、数日間だけホテルに泊まって散策という過ごし方は敷居がまだ低いのかもしれない。 上でも書いたが、居酒屋と銭湯をオアシスとみなす一般的日本人中年男性の価値観なので、それなりに忙しく、資産はないが今月の家賃に困るようなことはないくらいの収入が前提になっている。読んでいるわたし本人としては、細かい贅沢を重ねられるほどの余裕はないから、この本で綴られている生き方が参考になるかは微妙なところであった。酒も嗜好品や息抜きというよりは、ジャンキー的な接し方になって久しいのでね。 以下、新しく住む街の候補を自分で書き出してみたはいいものの、知らない街を訪れるという体験自体が存外少ないと気付いた。思えば京都に住みすぎた。よって、海外の街と、さらに行ったことのない街も挙げた。 ・神戸・元町~三宮エリア 第一候補で実際に引っ越す直前まで行った元町~三宮エリア。港町というものは外からのものが入ってくるし、外へと出ていく場所にもなる。だからというわけでもないが、舶来のものが古くから溶け込んでいる。異人邸(塩屋に行けば旧グッゲンハイム邸もある)と中華街がすぐそばにあるのも、やたら自分たちの歴史に固執する京都気質のようなものがあまり合わない身としては嬉しくなる。昔ながらの小奇麗でない喫茶店も多く、それこそ京都のような観光地にありがちな、ゴミおよびそれ扱いされる存在に対しても目くじらを立てないイメージが強い。 ・ゴールウェイ(アイルランド) 観光で食べているところは京都っぽいし、港町+中心部が一応歩いて回れるところは元町っぽくもある。中心部のアーケード街は別として、ダブリンともどもそこまで綺麗でないところが好印象だ。神戸でいえば三宮から少し離れた生田川とか春日野にあたるエリアが所謂観光都市ゴールウェイと、地の街であるゴールウェイとの境になっている。こればっかりはもっと長く住んでみないとわからんな。より地元に慣れれば、西岸部ソルトヒルを越えた先あたりもよさそうだが、、墓地とパブぐらいしかないだろうな。ダブリンはそもそも地代が高いので、よほどのことがないと住むのは現実的でない。アイルランドは経済的に貧しい国だが、カトリックの教えが根底にあるためか共助の空気は強い。日本の生活に慣れていると、普段の生活と最低限度の生活というものが違うものであると受け入れることに苦労する。 ・石川県金沢市北部~能登半島エリア この広く漠然としたくくり方から石川県に行ったことない人間であることがバレバレである。ここ数年日本海側になぜか惹かれているのだが、アイルランドのように天気が不安定な土地が好きであることと無関係ではないだろう。夏よりも冬が好きになったし、暑さより寒さ(とそれに対してなんとかすること)が馴染んできた。山も海も近い金沢市はサンダーバードという特急列車が京都から出ているため、何か余裕ができれば行こうとは思っている。
『スペアタウン~』にも出てくる多摩センターのスーパー銭湯「極楽湯」は毎週月曜日の夜間だけ500円で入れたから、徒歩で30分くらいかけてわざわざ行ってた。10年前の情報です (23.11/23) |
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