京都・磔磔 SCOOBIE DO 2019 4/21

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久々にライブのレポートでも残しておこうと思う。この日は大阪でも興味深い催しがあったのだが、既に京都にて行なわれるこちらを先に予約していたのだった。今回は会場の磔磔が45周年、バンドのボーカルであるコヤマシュウが44歳をそれぞれ迎えるため、そのお祝いという名目で開かれた。
自分が「磔磔で」スクービーを見るのは6回目くらいだと思う。回数だけならば、おそらくは一番見ているバンドである。訪れる度に、客層の大部分が自分とは異なる世界に住んでいることを痛感する。家族で訪れる人、終わってしまったフェスのTシャツ(日付と出演するバンドの名前がズラーッとなってるやつ)、タオルを巻いて今にもジョギングを始めそうな人etc...。多くが翌朝の8時には電車に乗って働きにいくのだろう。バンドには「アウェイ」という曲があるけれど、そこで歌われている通りの心境になるなんてこともなし。なぜならこの曲の歌詞は、まさに彼ら彼女らへと向けられているような内容だからだ。言葉はただ通り抜けるのみである。

ライブはいつも通り、出囃のアート・ブレイキーから始まった。ずっと昔はニーナ・シモンだったらしい。いつからブレイキー(「A Chant For Bu」)を使うようになったのか。演奏が始まる前にドキドキするなんてことはなく、いつもこういうことを考えてしまうのだった。はじまりは「FLASH!」、音源以上にエフェクトまみれのイントロが耳を突く。6年くらい前に新代田FEVERで見た時もそうだった。今回のセットはあの時と重なるものが多く、珍しくギターがソリッドすぎるリズム&ブルース「GOOD MORNING」も披露されていた。素直に驚くべきは、例えば10年前のライブ盤なんかと頭の中で比較しても、目の前で起こっている演奏の方が遥かに凄まじいことだ。体験しているか否かの違いという意味ではなく、クオリティにおいてである。ここ最近はデモテープ時代の曲までセットリストに引っ張り出すのだが、どれも演奏によってアップデートされている。そんな曲を、わが子を大事にするようなところがまた泣かせる。
序盤でクロージングの定番である「悪い夢」などが演奏されるなど、かつてない程に力が入っていた。シャウトのある曲だらけだったのはコヤマが主役であるこの日ゆえ、だろう。ファズの残響と比例するかのように会場は熱を帯び、さらに比例してセカセカと動く白塗りならぬ白スーツが、ロックンロール=道化のセオリーを説くような。自分がコヤマから受け止めるパッションはいつだってこうだった。ステージを降りれば、彼はバンドでは(おそらくメンバー中もっとも)ローテンションなのだ。
 この日のサプライズとしては、コヤマ単独の弾き語りがあった。ギターを練習してきたそうで、たどたどしくも、くるりのカバーと磔磔を祝福する歌が披露された。磔磔には屋内の壁を埋め尽くす勢いで過去の出演者たちのポスターやサインが飾られている。歌の中では、そこにいる人々、コヤマ曰く「レコードの中でしか生きていない者」たちが登場した。この一方的な対話の喜びを歌うことにコヤマ(そして他メンバーの)の核を見た。その理由は、筆者も同じタイプの人間だからである(プロレスとソウル・ミュージックには明るくありません)。

弾き語りを終えて再開されるバンド演奏。ベスト盤に未発表曲として収録された「Everything gonna be Alright」は、ここ数年見た中で最も素晴らしい演奏だった。あんなに楽しそうに歌っている人を見たことは、すぐに思い当たらないくらいには、ない。その後の「茜色が燃えるとき」も清々しかった。4年前の日比谷野音で見た時よりも良かった。詞はコヤマによるもので、本人お気に入りの一曲なんだそうだ。
クライマックスの「ロックンロールは未定」はいつだって声と音がぐしゃぐしゃの塊でやってくるのだが、今回は声がハッキリと聞こえた。あるいは自分が聞くようになったのか。頭おかしくなってくれないか、人間やめないかと叫ぶも、その熱狂にはサイケデリアと呼べるような忘我はない。職人仕草と言えばいいのか、ミラクルを起こしはするがそれを最初から期待はしないコヤマの振舞いは、スクービーのライヴが確実に練り上げられてきたショーであることと、オーディエンスを興奮させる術をわかっているコヤマのプロレスラー的美意識によって支えられている。そんな真面目さにグッとくる。
少なくとも自分にとっては、磔磔での間近な距離だろうと、日比谷野音のシルエットしか見えない距離だろうと、彼は同じように見えた・・・しかし熱量という点で今回の磔磔は、今まで見た中で一番のショーだった。ホントに。
少々耳鳴りがするくらいの大音量で終演後は当然ヘトヘトだったのだが、ジョギングをした後のように心地よい疲れだった。神秘的な体験なんてものとは程遠い、それでいて忘れがたい余韻があった夜だった。

(19.4/24)