サイケな世界 ~スターが語る幻覚体験~

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英語の勉強もかねてNetflix内のドキュメンタリーなどを毎日視聴している。音声だけでなく字幕も英語にして耳と目を慣らすのが目的なのだが、内容に強い興味があると、理解度を高めるためにどうしても日本語字幕をオンにしてしまう。本来はそういうものとはいえ。

 『サイケな世界』は著名で存命(当然だが重要だ)の俳優やミュージシャンたちがドラッグによる幻覚体験について話す、ただそれだけのドキュメンタリーである。取材に応じているのはスティング、ドノヴァン、エイサップ・ロッキー、キャリー・フィッシャー(『スターウォーズ』旧版のレイア姫)、ザック・リアリー(ティモシー・リアリーの息子)など、幅広い業種からの人選だ。ハイになった時、バッドトリップに苛まれた時、そしてそのどちらかすらわからない未体験の時間がそれぞれの口から語られる。本人の出自を考えると軽く考えてはいけないトピックではあるのだが、エイサップ・ロッキーの「アヤワスカはまだ怖いからやらない」がよかった。

 体験を口伝で100%理解できるわけもなく、ドラッグ経験のない視聴者は証言と再現VTRに対してただただ想像にふけるのみ。SNS上の広告で嫌というほど見られる類のFLASHアニメで描かれるそれは、(少々気味が悪いとはいえ)人畜無害なイメージを強調しているかのようだ。これと対照なのが、番組内で批判的に取り上げられる旧来の「反ドラッグ啓発」VTRで、こちらは実写によって作られている。80年代風の演出とセット(おまけに画質)によってステレオタイプなドラッグ体験(幻覚と幻聴による異常行動など)が描写され、あらゆるドラッグをひとまとめに不道徳のアイコンと定める。80年代のカルチャーがミレニアル世代以降に再評価されている昨今を思えば、この演出が逆説的なアピールになっていると考えても差支えないだろう(よく見たらキャストは白人、アフリカン・アメリカン、アジア系と現代的なバランスを反映した内容になっている)。

 もう一つの旧来の認識を批判している例は、番組の司会がフライパンで焼いた卵を食べるくだりだ。これは70年代にニクソンが麻薬撲滅キャンペーンを展開させた時期に打たれた広告のパロディである。ニクソンが黒人の一方的な逮捕を正当化するために麻薬撲滅を口実として採用したことに限らず、ドラッグは体制側にとっての脅威同士を繋げるものであり、それを駆逐するための免罪符として使われていた経緯がある。この番組の次に視聴した『13th -憲法修正第13条-』内でも、このニクソン時代の強権の全体像が描かれていた。これを偶然と呼ぶには少々他人事がすぎる。ずっと続けられていたことに改めて気付いたとするべきだろう。

 あくまで60年代におけるサイケデリックをフィーチャーした内容なので、80年代のドラッグ文化と切り離せないクラブ・カルチャーなどに言及する場面はほぼない。同様にスマートドラッグや大麻産業など、現在進行形の出来事も脇に置いている。ノスタルジアとしてのサイケデリックとさえ呼べる内容なので、より具体的な実情を知りたい人はNetflix内にも多々あるドラッグとメンタルヘルス系ドキュメンタリーの視聴をお勧めする。アニメ『ミッドナイトゴスペル』は現代系のドラッグ需要(抗うつ剤など)が色濃く反映されている内容らしいので、こちらもいつか見てみようと思う。


(20.6/17)

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