『オアシスロード』

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目下執筆中の『ビデ再』も大詰めを迎えているはずなのだが、去年から進んでいない。どうやら気のせいじゃないようだ。また、今年は1月から本の発送業務などで忙しく、文章を書く時間そのものが激減した。頭の中で考えが浮かんだときにメモすることは欠かしていないが、書き溜めたアイデアの断片をつなげることも億劫というか、脳が文章を書くモードへとスイッチングしてくれないのである。こんな風にすべての動作が鈍くなっている。まさかこんなに忙しくなるとは思わなかった。そのおかげで経済的に去年よりはマシになったから不満は言えない。

最近は『ビデ再』で取り上げるゲームを遊ぶ際、YouTubeチャンネルで配信しているのだが、今は『オアシスロード』をやっている。99年にアイデアファクトリーが出したシミュレーションタイトル。知名度はかなり低いが、『トイズドリーム』や『ダンジョン商店街』と並ぶ秀作であると思っている。かつて一度だけ遊び売り払った自分を蔑んだりもしたが、ある程度歳を重ねて『Rimworld』あたりの良さがわかってきた今、再読する甲斐はあった。いや、今でなければ遊べなかったタイトルと言ってもいいだろう。

簡単に説明すると、大きな災害で滅んだ人間の叡智を掘り出し、それを後世へ伝えていくための探索と貿易が目的のゲームである。町と町を行き来し、絹や油などの素材を輸出・輸入してはそれぞれを発展させ、やがて都市にまで巨大化させていく。素材を得るために探索することで砂漠の世界に地図が出来あがり、文明ひいては人間が延命していく。実に世紀末のゲームらしい背景だ。
シルクロードをモデルにしているとおぼしき設定か、中東~エジプト地域がモチーフになっているように見える。90年代は中華を筆頭に、東洋のファンタジーがよくフィクションの題材になっていたが、これもその周縁に位置する一本だろう。あくまで物資の伝達がメインであるが、キャラクターたちがしょっちゅう古代の言い伝えを口にしながら旅を続けるところには、西遊記や西ヨーロッパ幻想文学さえも彷彿とさせる。
シルクロードを連想したのはタイトルからしてそうだというのもあるし、貿易の対象になる品が糸、布、ウルシ、漆塗りの器という並びからも察せた。権力者のための装飾品に使われる素材がおしなべて貴重なものとして説明される。曖昧な「価値のある宝石」みたいな者はそう出てこない。生活に介入し、それを作り出す需要によって町が都市へと発展していく過程はリアルだ。
文明が発展していたことを示唆するタペストリーは生命の木が記されており、荒野にたたずむ木から飛んだ種子が遠大に広がっていくことを暗に示しているのだが、生命の木とか言い出すものだから、カバラ(ユダヤ人)がシルクロードを通っていたことに言及しているのかと深読みした。でも、このゲームにオカルトの気配はないな。また、滅び行く文明を舞台にしている割には悲壮感もない。6つのチームから選べる仲間たちは、先行きのない世界だからこそ自らに忠実な生き方をとっている姿が描かれている。実は『リンダキューブアゲイン』的なひたむきさがあるのでは。「世界が広がれば、わたしたちの選択も広がるでしょう」という印象深いセリフがあった。ノストラダムスの予言の年におけるアイロニー、と受け止めるのはまじめすぎるかもしれないが、かの年にはそう思える人だっていただろう。

ゲームシステムだが、基本的な交換の仕組みを知っていれば不自由はしない。金貨1枚で買った花がとなり町で2枚で売れる、というやや適当なバランスに気付けば資金難になることはない。資金難とは食料を買う金がないということであり、食料がつきるとアイテムがすべて失われた状態でスタート地点にまで戻される。高値で売れる加工製品を得れば、あとはそれを売り続けるだけで資金はだぶつくほどになる。ヤギと壺を持ち歩いておけば、自然と食料が増えるという仕様もなかなか面白い。
モンスターとの戦闘も武器をその都度買っていれば大丈夫だし、強力な魔法の仕組みや召還(モンスターを使役し、戦闘に参加させられる)があれば困ることはなく、戦闘パートが面倒なだけに感じてしまう中年にはありがたいヌルさであった。『トイズドリーム』はこの辺のパートがないため、より快適だったな。


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(24. 7/8)