V.A. / Slava Ukraini! (2022)

ロシア国家の侵略行為に端を発するウクライナ情勢を受けて、英House of Mythologyとレーベル内に設けられたHomAleph(Current 93の過去作を復刻するための部門)の連名で発表されたベネフィット企画。本作の収益はすべて「国際赤十字連盟」(International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies)に寄付される。私的な戦争反対として、武器提供(たとえ防弾チョッキだろうがなんでも)ではなく人道支援にのみ助力したいという思いから寄付した。アートワーク(デビット・チベットによるペインティング)はウクライナ側の抗戦の支持ではなく、彼の地で傷つくものすべてへの悼みと、そこに生じる戦争という状況そのものへの反対の意だと解釈した。もちろん、筆者の私感である。

収録曲は主にここ1~2年のHoMレーベルの音源である。以下に、簡素ではあるが各作家について紹介する。

Youth (「Spinning Wheel」)
Killing Jokeのメンバーにして、パンク以降の英国オカルティズム運動とクラブカルチャーを繋ぐスピリチュアルDJであるYouthによるフォークソング風歌曲。

Laniakea (「Hyperion」)
Sunn O)))やUlverでも演奏するマルチプレイヤー、ダニエル・オサリヴァンのプロジェクト。トライバルなパーカッションには、80年代からあらゆるジャンルに浸透したエスノの感がある。HoM外の作家だが、Othonにも通じるビートとハーモニーの自己流解釈だ。

Kitchie Kitchie Ki Me O (Europa (First Light)
MadrugadaやMy Midnight Creepsらノルウェーのロックバンドのメンバーらが結成したバンド。ニコが『Desert Shore』で描いたような、自然と人間一人のギャップを音におこした一作。

Alora Crucible (「Bottomless Madrugada」、「Synaxarion of John Isangelous」)
米プログレッシヴメタルバンド、Vauraのベースを弾いていたトビー・ドライヴァーのソロ名義。ストリングスの響きが延々と、衰えることなく流れ続ける。キリスト教的権威の装置たるクラシックに異教の知を混交させるHoMは、新しい本流の創造を試みることこそが本懐だろう。

Ulver (「Machine Guns and Peacock Feathers (Carpenter Brut Remix)」、「Club Fuego」、「Nostalgia」)
Ulverはアルバム『Flowers of Evil』収録曲とそのリミックスで参加。「Machine Guns and Peacock Feathers」は少し遅れた(?)80s回帰的なエレクトロ風ダンスとなった。ハロウィンに発表された『Scary Muzak』は企画モノと思われがちだが、昨今の歌メロ重視の作風が合わない人間にとっては嬉しいモダン・クラシカル。

Current 93 (「Death Of The Corn」、「Killy Kill Killy *A Fire Sermon*」、「If A City... 」)
HoMの支柱の一つであるCurrent 93は80年代の楽曲の未発表ミックスと、今月発売される新譜からの1曲「If A City... 」を提供。人の心の中に生きる風景を「街」と呼ぶことが、残酷なまでに現在と結びついてしまう。

Nick Blinko (「A Pawn In The Game」)
魔術的アナーコ・パンクRudimentary Peniにして、己の精神世界を描写し続ける画家でもあるニックの未発音源。引き裂かれるような叫びとうわ言はニック自身への問答であり、彼の描く世界のバックミュージックでもある。

Daniel O'Sullivan (「Waterbearer」)
ダニエル・オサリヴァンがソロとしても一曲提供。牧歌的な調べとフィールドレコーディング、そして少女による自然の風景を描写した朗読が添えられる。未発表なことからもプライベートな時間を切り取った趣のある内容だが、時勢と離れているからこその収録だろうか。

Teleplasmiste (「To Kiss Earth Goodbye」)
COILやCurrent 93でバグパイプなどを演奏していたミヒャエル・ヨークとマーク・ピリントンのデュオ。マークは『England's Hidden Reverse』の復刻や、現在バブズ・サンティニことスティーヴン・ステイプルトン(Nurse With Wound)画集を計画している出版レーベルStrange Attractorのオーナーである。本曲は2020年発売のアルバムより収録された曲で、バグパイプを骨子としたウォール・オブ・ノイズ。

Michael Cashmore(「You Are The Divine Center Of Vibration」、「Witnesses The First Codes Of New Creation」)
Current 93のギターや楽曲アレンジを務めたのちに沈黙し、復活後にはなんとエレクトロに開眼したキャシュモアのソロ作。ヴォコーダーによるコーラスまで持ち出した本曲は、アシッドハウスに目覚めたPsychic TVやダンス・ミュージックを独自に咀嚼したCOILの影が映る。「Witnesses~」ではエレキギターも持ち出され、かつてのアコースティックな音からは想像できない厚みが。

Zu (「The Dawning Moon of the Mind」)
2017年に発表されたアルバムから一曲。ドローンを背にしつつ八木美知依の琴が独演気味に鳴り、そこに少しずつ電子音、ベース、ノイズが合流して大きなうねりを描く。その余波たるストリングスと電子音主体のドローンの向こうから人の声のような音が届き、朝焼けのような壮大なクライマックスへと向かうスペクタクル。

Stian Erstwerhus (「How Long」、「Hold On」)
PumaやMonolithic、そしてここ数年のUlverでも演奏するギタリストの、それぞれ2016年と2020年ソロ作より。「How Long」ハーディガーディともストリングスともつかぬ音はエレキギターで作られているようだ。「Hold On」はギターであることを隠さない荘厳な多重弾き語り。

HHY & The Macumbas (「 Ergot Glitter」)
エイドリアン・シャーウッドと共演したことも記憶に新しいジョナサン・サルダーナのプロジェクト。2018年のアルバムから収録された本曲は人力ブレイクビーツが貫徹されているダンス・チューン。後半からラテン・パーカッションが入ってくることでより昇り調子になる。

The Stargazer's Assistant (「Arinitti 」)
アヴァン・ロックGuapoのデヴィット・スミス、ミヒャエル・ヨーク、そしてステファン・スロワーらとのUnicaZürnや、2018年にパフォーマンスを再開したダニエル・ダックスのバックを務めるデヴィット・ナイトが組んだトリオ。ZuやTeleplasmisteにも通じるHoM的リチュアル・ドローンだが、ここでの主役はシンセサイザーだ。

Samuel Joseph & The Guiding Hand (「Back Home」)
オーストラリアのFamily Jordanというバンドでも活動しているサミュエル・ジョセフのソロらしき楽曲。録音やライヴ時のエンジニアとしての仕事も多いようだ。HoM的なクラシックの要素が薄いオーセンティックなバラード。

Embracing The Ruins (「The Lyre Of Blood Will Drive Off All Evil」)
Zuのマッシモ・プピロの別プロジェクトが2021年に発表したアルバムから。ブラック・メタルの原型としてのインダストリアル、すなわち初期Current 93風の暗黒儀式的音楽。曲名が侵略ないし抗戦のどちらにも転用できそうな字面だけに、受け止められ方に少々不安を抱かないでもない。


戻る

(22.3/6)