JG Thirlwell / Music of The Venture Bros Volume 3 (2025)

2003年から2018年までカートゥーン・ネットワーク内の「Adult Swim」枠で放映され、2023年の長編『Radiant Is the Blood of the Baboon Heart』をもって完結した『Venture Bros』のサウンドトラック第三弾。スコアは一貫してJGサールウェル(Foetus,Steroid Maximus, Manorexia, XORDOX etc.)が手がけている。本編に関してはこのサイト内でも書いているが、ハンナ・バーベラ調のキャラクターたちがポップカルチャーのグロテスクな部分含めた引用とともに世界を股にかけるレトロフューチャー活劇、とかそんな感じである。デヴィッド・ボウイがヴィランの長として出てくるってだけでも気になる、はずだ。

ラウンジ〜ビッグバンド形式のインスト・プロジェクトであるSteroid Maximusがアニメのインスピレーションになったことから舞い込んできた。多岐に渡る曲調やサウンドロゴ的な数秒だけの再生時間など、本シリーズの仕事がJGの音楽的ボキャブラリーに豊かさをもたらしたことは否定しようもない。2000年代に入ってからオーケストレーション化したFoetusから、シンセサイザーだけのプロジェクトXordoxまで、プロジェクト同士が受粉するように『VB』以降のJGは発展し続けている。

三枚目のサントラとなる本作は、メインテーマを収録した一枚目や、作品のトレーラーに使われた「Ham And Cheese Hero」が入った二枚目と違って、小粒揃いの内容になっている。アニメ本編中の様々なシチュエーションのために書かれた曲、つまりJG本来のテイスト(本人曰くバート・バカラック、セルジュ・ゲンズブール中心のフレンチシャンソン、ラロ・シフリン、スティーブ・ライヒ、イゴール・ストラヴィンスキーなど)に番組側のリクエストが重なって起きた化学反応の結果がお披露目されている。

「Copycat」(シーズン6に出てきた同名ヴィランのテーマ)や「Night for Crime」といったJG流キャバレー音楽では、氏とアニメスタッフが大事にする「レトロ」なムードにホーンが必要不可欠だと教えてくれる。『科学少年JQ』などのハンナ・バーベラ作品からスペースエイジに至る70年代以前のアニメが下地になっている『VB』は、さらにジョン・ウー監督作品や『カウボーイビバップ』などのスタイリッシュなアクションも取り入れている。後者は菅野よう子によるあのビッグバンド〜ニューシネマ風インストジャズが劇伴であるからして、『VB』はニューヨークからの回答といえなくもない。オープニングアニメもそれっぽいし。JGも菅野もアイデア的な意味でのサンプリングが激しく、この出会いには膝を打つ他ない。
EDMとオールドスクールなアシッドハウスが混ざりあったような「Hells Bells」は、ナイトクラブのシーンで一瞬だけ流れる曲のフルバージョン。ダンスミュージックには行かなかったJGが、ニューヨークから横目に見ていたUKレイヴの記憶をなぞったかのような、どこかいびつなレプリカンである。
ヴィランたちの会議時に流れる「Council of 13」や、彼らがシーズン7最終回で実践する儀式(アレイスター・クロウリーのリファレンスもあるだろう)のBGM「Saphrax」は、JGが過去に手がけてきた『The Blue Eyes』といったフォークホラー作品に近い。凶事の予兆だけを促すムード音楽、つまり作曲者のエゴを抑えて作品を補強するに徹した映像のためのスコアだ。なので、これらを音楽単体で切り離して聴くだけでは、鍵穴から覗き見しているようなものなのだ。なかなか観るのは難しいけれど。
三枚もサントラが出てるので満足なのは違いないが、まだまだ音盤化されてない曲は多い。個人的な要望を書くと、「Hells Bells」と同じエピソードでかかったブレイクコア、アンディ・ウォーホルらをモデルにしたポストモダン・ヴィランたちが乱痴気騒ぎをする時に流れたヴェルヴェッツ「Femme Fatale」っぽい歌(まじでそっくり!!)を期待していた。

このアニメの仕事を最初に受注した時、いかにも湿っぽく涙を誘う曲を書くことに抵抗があったとJGは筆者にも話してくれた。しかし、全体のためのパーツとしての感情を表現できるようになったことで、JG個人の音楽のディテールも克明に描かれていく。2010年のFoetus名義『HIDE』は、氏のパブリックイメージである「鉄板を叩いて不吉なことをがなるシンガー」から大きく離れているが、かつて表現したかったゴールへダイレクトに到達できるようになったとするほうが正しいだろう。感情を条件付ける音楽を解体し、分析し、最終的には理論では説明できないエモーションの発見にまで至っている。自己分析の術を携えたJGは、まさに今年の終わりにFoetusとしてのラストアルバム『Halt』を発表するが、どんな仕上がりになっているが楽しみだ。

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(25. 10/13)