2018年にOrganum名義の『RAVEN』で復活して以降、デヴィット・ジャックマンの発表の頻度は過去のそれを上回っている。独Die Stadtはジャックマンの新作を定期購入するサービスを開始し、新録のCDがほぼ月一で作られているようだ(加入者が身近に1人しかいないので又聞きの情報です)。日本での古くからのパートナーである鈴木大介氏主宰のSiren Recordsからもコンスタントに音源が発表されており、本作『石碑老鳥』(ジャックマンの造語とのこと)も同レーベルからのリリースである。 復活後に始まったOrganum Electronics名義の作品はオシレーター由来のノイズをできる限り生の状態でパッケージしたものだった。従来の金属摩擦、尺八、教会音楽的ドローンなど、音色と響き(およびその縮退)を追求してきた成果と比べると、そのラフさに肩透かしをくらうこともあるだろう。90年代のころから難聴を患っていたジャックマンが、耳鳴りに苦しみながら己の手でノイズを生み出したこと、内にこだまする雑音を中和するかのようにそれを音楽として昇華させていた軌跡があってこそ、あの生々しいOrganum Electronicsが成り立っている。 このように考えてしまうのはジャックマンの音楽を忘れないまま年月を重ねたリスナーならではだが、『石碑老鳥』はますますそれに拍車をかける内容だった。本名名義であるように、Organum Electronicsの粗さはなく、むしろOrganum後期のホーリートリロジーと呼ばれる教会音楽の再解釈に接近した内容である。40分と少し、オルガンやゴングの重たい和音が続くストイックなドローンだが、これでもジャックマンの音楽においては色彩豊かなほうである。ここに『RAVEN』でも使用したと思しき、鐘の音を捉えたフィールドレコーディングが挿入されることで、ジャックマンは少しだけ過去の作法にかえった、と深読みしてしまうのは先に書いたようなファン心理の賜物だが、間違いとも思えないのだった。それは懐古的な意味ではなく、続けるための必然としての帰還ではないか。 (24. 7/1)
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