House Of Mythologyとデヴィット・チベットが数年前から始めたCurrent 93の旧譜復刻レーベル「HOMALEPH」から、2枚のアルバムが同時にリイシューされた。アイスランドのヒルマー・オウン・ヒルマーソンとの連名で作られた『Island』(1991)と、ほぼスティーヴン・ステイプルトン(Nurse With Wound)単独の仕事とも呼べる『In Menstrual Night』(1986)で、どちらもLPのみである。『In Menstrual Night』はスリーヴなしのピクチャ盤というフォーマットもそのまま再現された。PVCケースは盤とひっつくために、確保してからすぐに別の入れ物に移したほうが吉。 先に書いたように、『In Menstrual Night』はステイプルトンの単独作業に近く、音だけならばNWWといっても差し支えはない(リリースもステイプルトンのUnited Dairiesからであった)。それぞれの場と時で録音された素材をタペストリー的に統合するNWWのメソッドは、このころに最初の音楽的頂点を迎えていた。A面『Sucking Up Souls』は、NWW『Homotopy To Marie』(1982)を思わせるゴシックなモンタージュだが、チベットの趣味が強く反映されてか、讃美歌から東洋由来とおぼしきチャント、果てには日本の童謡「とおりゃんせ」までが登場する。これらはクライマックス的に挿入されるのではなく、断片的に反復されては他の音と交差し、消えていく。『Homotopy To Marie』のように物語性を帯びたコラージュでないのは、当時数日間の入院生活を送っていたステイプルトンが、病院という施設での聴取体験に強くインスパイアされている。心電図機械の駆動音や看護士が書類に筆記する際の音など、無数の音がアトランダムなタイミングと角度から聞こえてくる環境は、さながら入院中にアンビエントの概念の萌芽を見つけたブライアン・イーノよろしく、音楽の聴き方に新しい角度をもたらした。イーノとの違いは、ステイプルトンがこの環境そのものに執心し、頭の中で残り続ける時間を音楽として再創造したことである。 アルバムのキーワードには月がある。88年末の来日時インタビューでもチベットは、生物学的な意味での女性に関心があると述べており、月経(menatrual)もその一つだった。太陽が男性性と昼の世界を表すことに対して、月は女性性、夜の世界、常識(多数派)の陰を映し出す光であり、その世界の入り口だった。COILも晩年にこの見解を音楽として表しており、ジョン・バランスはこの『In Menstrual Night』をいたく気に入っていた(彼の死に捧げられた『How He Loved The Moon』は、本作を再構成したものだった)。 (24. 4/26)
|
---|