Barry McGuire / Eve Of Destruction (1965)


アルバム全体ではなく、表題曲である「Eve Of Destruction」についての話である。ボブ・ディランがフォークを電化し、Jefferson Airplaneが結成されたフラワー・ムーヴメント元年ともいえる1965年7月に発表されたのがこの「Eve Of Destruction」(邦題「明日なき世界」)だった。PFスローンが書いた曲と詞をThe Turtlesが歌ったが、その後に録音されたバリー・マクガイアによるバージョンがもっとも有名なようだ。実際、筆者はマクガイアの楽曲といえばこれしか知らないし、このアルバムも表題曲以外はあまり記憶に残らない。ベトナム戦争への反対を強く主張した歌詞、友愛ではなくそれを妨げる現実を延々と説明したそれが、しわくちゃなマクガイアの声と合っていて心地よい。「破滅がすぐそこだって信じられないんだろ」。自暴自棄の色も含む軽口めいた歌い方は、レナード・コーエン「Hallelujah」の「本当は音楽なんてどうでもいいんだろう」にも通じるものがある。
 筆者がこの曲を知ったきっかけは、Current 93のノイズ・コラージュ時代至高の一曲である「Great Black Time」(1987年。収録アルバム『Dawn』はCDだと内容がほぼ別ミックスになっているので注意)でサンプリングされていることからだった。ここでは、マクガイアの歌う「We're on the eve of destruction」という一節から「destruction」(破滅)だけが執拗にループされている。レバノン侵攻やフォークランド紛争はもちろん、冷戦という破滅への共通認識が北半球を中心に支配していた時代であることは、想像の域を出ないにしても知っておくべきだろう。いや、そんな試験勉強めいた筋道をたどらずとも、今日の時勢を鑑みるだけでも十分だろうか?

Current 93とその周辺にいたインダストリアルオカルト派は、チャールズ・マンソンへの執着に顕著な、フラワー・ムーヴメントへの憎悪ないし皮肉を推進力にしていた。それは(少なくともCurrent 93やDeath In Juneにとっては)Loveなどの音楽を生んだ当時の神話性に惹かれていることの裏返しでもあり、Sex Pistolsやアレイスター・クロウリーが(若者にとっての)パラダイムシフトであった時代の残響でもあった。すなわちポピュラーカルチャーをタブーで修飾するということである。上で名を出したCurrent 93「Great Black Time」では「Eve Of Destruction」以外にも、The Mamas & the Papas「California Dreamin'」(「夢のカリフォルニア」)がコラージュされており、パンクの「ヒッピーくたばれ」的態度が知的かつパラノイア的に表現されている。それは60年代を拒絶するのではなく、再訪するということであった。友愛の時代を裏側から解釈(パロディ)することが、従属を強要する現在への対抗になる。
 マクガイアによるバージョンは冒頭にドラムだけが鳴り響き、しばらくしてからギターと歌が入ってくる。このドラムがティンパニのように聞こえてしまい、まるでCurrent 93がオリジナルの方へとやってきたかのように錯覚してしまうのだった。裏側からサマー・オブ・ラヴに入ってしまった(筆者のような)人は、60年代の愛の歌がすべて皮肉の類に聞こえてしまうのではないか。それでも素通りするよりかはマシだ。
筆者は(敬虔な)キリスト教徒でもなければ、もはや商業的な慣習としてのクリスマスに反対する理由もさして持っていない。だからこそイヴにこんな曲のことを考えてしまっていた。いいご身分だと自嘲しながら、世界のどこかに同じような人がいることを想像する。

戻る

(23.12/27)