表面化する機会こそ少ないが、その引力が途絶えぬ『Serial Experiments Lain』のサウンドトラック第2弾。第1弾が仲井戸"CHABO"麗市によるギター主体の内容に対して、こちらは劇中に登場するクラブ「サイベリア」(ダグラス・ラシュコフの同名著作よりとられている)でプレイされているという設定の音楽集。音楽はDJ WASEIこと近田和生(アニメにもクラブの住人J.Jとして出演)と、元データイーストの竹本晃による。WASEIは『beatmania IIDX』シリーズへの楽曲提供から人気を得たTaQとのイベント「Bounce」を共催していたため、本サントラはある意味『IIDX』シリーズの親戚のような立ち位置にも置ける。順番は反対だが、筆者が収録曲「Cloudy, With Occasional Rain」で聞こえるボイスサンプルから「IMPLANTATION」(初出は『ドラムマニア』ですけど)を思い出したことも当然といったところか。「Professed Intention And Real Intention」のスネアロールを聴いた時も、「V」を思い出した。なお、WASEI氏は2018年~19年に本作の続編的な方向性をもったアルバムを発表していたが、やはりというべきか当時の空気のようなものがない分、良くも悪くも別物の感は否めなかった。
とにかく「当時の」クラブ・ミュージック、その典型が詰め込まれているサンプラー的一枚である。収録曲はジャンル分けが目的化(のちの『beatmania IIDX』シリーズがアイデンティティにしていく部分でもある)したかのごとく、それぞれの曲が他とのスタイルの違いを提示している。UKライクなブレイクビーツ「Prayer」、横田進またはヒロシワタナベ的なデトロイト・テクノの派生といった趣の「Island In Video Casset」、上にも名前を出した「Cloudy, With Occasional Rain」はジャングル~トリップホップ的である。トライバルな「Psychedelic Farm」は、サントラ発売の約一月前に稼働していた『beatmania 3rd mix』収録の「trive groove」(これもヒロシワタナベ仕事である)を思わせる。808風のバックにアニメの主人公・玲音役の清水香里によるスポークンワードというか、英文読み上げが乗る「INFANiTy World」はヒップホップではなく、ナード版Young Marvle Giantsと適当にかましてみる。ラストはオープニング曲「Duvet」のTVサイズだが、実はCHABOの方のサントラや後にリリースされたBôaの『Tall Snake』EPにも未収録である。 普段からといえばそうなのだが、ここ最近は98年のことをやたらと考える。アニメとゲームの『lain』が世に放たれ、ここ最近に筆者が再読し直した『ゼノギアス』が発売された年でもある(興味深いことに『ゼノギアス』も主人公が多重人格である)。この年に筆者は10歳で、嗜好が形成されていく時期だったといえる。ゲームやアニメ、玩具を見るにしても、好きなものとそうでないものの差異が感覚的につけられていく。ある作品を直視していなかったとしても、無意識下へと刷り込まれていたことに後から気付く。つまり、作品と出会っていないと同時に、出会っているニアミス的な経験だ。音楽の聴取はこちらの心身を包み込んでは染み入るという点で、ひと際このニアミス体験に近いかもしれない。別々のタイミングで出会った本サントラと『IIDX』シリーズがお互いを連想させることは必然ではないが、偶然で片づけられることでもない。 (22.5/5)
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