amazonを巡回していたらboa(oは特殊文字)の『トール・スネークEP』(上段左)が新品かつamazon在庫で入荷されていた。中途半端にプレミア化していた一枚だが、業者が手放したのだろうか、なんにせよ珍しいのでこの度購入。『トール・スネークEP』はboaがアニメ『serial experiments lain』に提供した主題歌「Duvet」とそのヴァリエーション、おまけに自身らのオリジナル曲をコンパイルしたものだ。
昨年末には『lain』の『Cyberia mix』(下段左)も購入しており、これで手持ちの『lain』のサントラ周りは揃ったことになる(高騰しているファンアイテム『ブートレグ』は除外)。これで何度目だろう。『lain』のサントラは仲井戸麗市が担当したもの(上段右)と、上記の『cyberia mix』がある。後者はアニメで音響も務めた竹本晃と、劇中にクラブ・サイベリアのDJとしても出演している近田和生が担当。98年という時期ならではの、完全量産型クラブミュージックが詰め込まれている。対して仲井戸氏と、キーボードなどのサポートを担当したたつのすけ氏が生み出したサントラはアコースティックとエレキ混同するギター・サウンドだらけ。エレキがバリバリ主張するサウンドは、男の目線で作られていると言えばいいのか、玲音やありすといった女性キャラクターには正直マッチしていない。だからこそ「家族の肖像」、「孤独のシグナル」といった曲で祝福される終盤のカタルシスはスゴイものがあるのだけれど。
『lain』本編はBGMが鳴る場面が少なめで、サントラ収録分も断片的に流されるだけだった。音源を完成させた状態で届けられたサントラは、仲井戸氏らの作品と受け止めても良いだろう。当時は『トライガン』の今堀恒雄のように名プレイヤーがアニメの音楽を担当するケースが多く、ドラマや特撮の劇判とは異なるフィールドとしてアニメが注目されていたのだろうか。 (15.2/1)
Serial experiments lain soundtrack
1998年8月 パイオニアLDC
仲井戸麗市(G,Vo,作詞作曲),たつのすけ(Key他)
01.lainのテーマ
アコギを持っているジャケットでイントロでもそれが鳴らされるのだが、転じていきなりエレキが主張する。全体的に物憂げなキーボードのメロディもさることながら、裏のベースも揺れに揺れている。劇中ではナレーションと共に流されることが多かった。
02.パルス・ビート 基本的にギターサウンド+αなサントラだが、仲井戸氏が打ち込みを多用しているところはマニア的に如何なものなのだろうか。あくまでBGMに徹する抑揚のない展開は、各サウンドが並行して進んでいるそっけなさによって顕著に。あまり出番のないサックスが良い味を出している。
03.インナー・ビジョンメロディに恵まれているサントラだが、この曲はその代表。単調なリズムと展開もくそもないウワモノをくぐって、ギターの調べが胸を打つ。
04. 霧の異次元 ドローンをバックに、くぐもったギターが行ったり来たり、中断したり。サントラの中でもかなり統率のとれていない曲で、曲名にピッタリ。どの音を追いかけるかで、曲の進行の把握に違いが出て面白い。
05.フリー・ゾーン高BPMのパンク・サウンド(時代的にグランジと呼ぶべきか・・・)。ギターのパン振りが左右で違うのがミソ。
06.Working Manのテーマ個人的に好きな一曲。4つ打ちと軽快なギターリフはフロアでも聴きたくなる仲井戸流ビッグビート。氏がこういうサウンドを作るのは珍しいのだろうか。後半のキーボードの進行がちょっといなたくて、良い。
07.トカゲのように…サックスとハイハットの刻みがコテコテすぎて泣かせるシャッフル・トラック。曲名も意味深で良い。曲調が地味にバラついているのは如何にも「サントラ」らしい。ピアノもかなり冴えてます。
08. 阿呆鳥のバラードこれも名曲。ほぼギターの独奏で、仲井戸氏のメロディセンスだけで勝負している。
09.坂道のテーマ 『トライガン』の今堀ギターとセットにしたくなる、屈指のアコースティック・ナンバー。フィンガーノイズもしっかり拾う。コードが微妙にズレて分解していく後半が良い。
10.遠い叫び 仲井戸"CHABO"麗市
RCサクセションの曲をセルフカバー。エンディングテーマで、短冊(8センチシングル)も出た。登場キャラクターの誰かに重なるかというとそうではなく、結果的に『lain』の世界観へ捧げられている。毎回エンディングで、この世界は「そう」なんだよと釘を刺されるような・・・。そして次の名曲へ。
11.孤独のシグナル 最終回のカーテンコールと呼ぶべき場面で流れる。それまでのシナリオは全てこの曲のためにあったのだと思いたくなる采配である。PS版の救いのない終わり(当時はアニメより先に出る予定だった)と比べさせる狙いがあったなら、尚更だろう。歌詞は中村、小中氏らによる物語への回答と受け取る。
12.lainのテーマ(Reprise) 前曲からシームレスに移行する。もちろん世界が一瞬で変化することはなく、日常がループすることを示唆するリプライズ。しかし、何かが違うと思いたい。
13.時空の風 ファズだけという潔すぎるトラックで、その意図はよくわからない。
14.家族の肖像「孤独のシグナル」の延長にある曲。セピアがかった宙(ジャケットの色味もそうですな)、びしゃびしゃに涙を流す玲音が目に浮かぶ。これまで流れてきた多様なトラックが懐かしくなる。次はいつ再生しようかな...
Serial experiments lain soundtrack Cyberia MIX
1998年10月 パイオニアLDC
WASEI"J.J"CHIKADA(M1,3,5,8,10,2はremix) 竹本晃(M2,4,6,7,9,11)
01"s"peEd
サンプルを駆使しまくることで、インスタントな印象を受けるトラックが多いサントラ。一曲目から、聞き覚えのあるサンプルや構成が頻出する。少々お粗末なブレークビーツだが、98年と言えばそこかしこでこの手のサウンドが聴けたはずだ。
02.duvet cyberia reMIX オープニングのリミックス。ファットなビートが目立つヒップホップなエディット。コーラスのいじり方も面白い。今となっては懐メロにも似た印象を受けるアレンジだが、このサントラはそんなのばかりです。
03.professed intention and realこれまた古めかしいブレークビーツで、WASEI氏によるマイクパフォーマンスが最高に恥ずかしい。あくまでサイベリアで流れている曲というコンセプトということで。使われている声ネタは『ジェットセットラジオ』の「Rock It On」を思い出す。
04. anti depressant ド直球なウワモノと四つ打ちだけという潔さと古臭さが泣けるトランス。303の添え物感がたまらない。
05.psychedelic farmトライバルネタだが、今なら一周回って新鮮に感じるかもしれない。サンプルありきのトラックなのが時代を感じさせる。曲名からサイケデリック・ファーズを連想するが特に関係はないだろう。
06.invisible file303またはそのクローンが唸りまくるダウンテンポもの。微妙に「ヨーロッパ特急」に聞こえるのは気のせいだろうか。途中から四つ打ちになったりする。
07.prayerUKロックの雑なイメージが凝縮されたようなギターサンプルが笑えてしまうが、どことなくブレイクビーツがマンチェスター風(ローゼスとか)だったりして芸が細かい。DJプレイと祈りのprayをかけている。と思う。
08.Island in Video Cassetteデトロイトテクノっぽいサウンドで、紋切型テクノの鑑である。波の音がサンプリングされるのもあざとさが振り切ってて潔し。カセットはカセットでも、ビデオなんだ。
09.K.I.D.s 7分にもわたるフロア用トラック。目立った展開もなく、繋ぎのパーツとして使われるような内容。「KIDS」とは作中でも出たプログラムの名称だが、これがかかっていたかは覚えていない...。
10.Cloudy,with occasional rain 満を持して出てきたジャングル。個人的には5鍵ビートマニアに入っていたそれを思い出す。中盤のコーラスはビーマニシリーズ「IMPLANTATION」でも確認できるんだった。女性ボーカルがあれば4ヒーローっぽくなったかもしれないが・・それは次で。
11.INFANiTy world サントラのクライマックスにして、衝撃の一曲。90年代末を象徴するローテンポなトラックに、メロディをなぞる玲音のボーカル(妙にウマい)とここまではいいのだが、カタカナ英語丸出しのスポークンワードに腰を抜かしてしまう。中学生という設定故か、それとも声優さんの素なのか、平静ではなかなか聞けない問題作になってしまった。声のトーンはゲーム版に近い。
12.duvet TV sized 『トール・スネークEP』にも収録されていないTVサイズ。
トール・スネークEP
1999年4月 ポリスター
01.Duvet
フル尺。歌詞から採用に至ったのだろうか、痛々しくも成熟した(ゆえにか)感触が、今となっては玲音のキャラクター像と微妙なギャップを生むような。とはいえ、この曲以外の始まりは想像できまい。コーラスとボーカルを行き交うジャスミン嬢の声だけでも泣ける。ちなみに彼女と兄のスティーブはポール・ロジャースの実子である。
02.Duvet cyberia reMIX Cyberia MIXに入っていたものと同じ。
03.Duvet(Accorstic Ver.)白眉なのはやはりこれ。ジャスミン嬢の歌声が大きくミックスされているのも嬉しい。
04. Two Steps ここからは完全に蛇足で、自分の中ではDuvetだけで良いバンドという認識が強まったのだった。個人差ということで。
05.Little Miss同上。