『THE BIG-O 25th Anniversary Negotiation Files』

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25周年ということで発売されたオフィシャルムック。サンライズはここ最近『エルガイム』の40周年記念本など、とにかく理由をつけて過去の作品を引っ張り出している。『ビッグオー』はガンダムのように盛大に祝われるほどの知名度というか立ち位置ではないというのが私感なのだが、『スパロボ』出演が地味に貢献しているのだろうか。今となってはWOWOWでひっそりやってたレトロスペクティブなアニメ、とは受け止められていないのかもしれない。漠然としすぎた「大人のアニメ」といった形容はまだ目にするが。
さて、今回のために作られた25周年記念グッズだが、背表紙にあるロゴが代弁するように、とってつけた感が強い。もはや年寄り(25年前の作品でこう呼ぶのもなんだが)からしか回収できないのが実情だ、という嘆きが聞こえてきそうである。メモリーという定義が懐古的な商業に取り込まれる・・・まさにレトロマニアの時代の産物といったところか。

本の内容はまず制作者インタビューとして小中千昭・片山一良・音楽の佐橋俊彦による鼎談型インタビュー。これとは別にさとうけいいちへのインタビューが少し。そしてロジャーを演じた宮本充とドロシーを演じた矢晶昭子改めうえちあき(改名されてたとは知らなかった)の対談。いずれも2003年に出た『THEビッグオー オフィシャルガイド』よりもページ数はずっと少なく、また情報も特に目新しいものはなかった。あくまで25年という月日の経過を懐かしむ域は出ていない。小中・片山ペアとさとうペアでビッグオーに対する見解というか、プロジェクトとしての受け止め方が異なるという図式も変わっていないようだ。前者二人は『エヴァンゲリオン』が示した過去の再利用・再解釈=レトロへの回答めいたものを出したがっているように見えた。70年代がエヴァにやられたなら60年代だ、という発言もDVD特典の映像で話していたと記憶する(宮本氏が手塚治虫『W3』を思い出した、とコメントするやつ)。
小中氏のクトゥルフ的恐怖の感覚と、『lain』で展開された記憶というライトモチーフがそのまま主題へと結びつくことで、幻想文学としての着地は果たせていたと思われる。かたや、さとう氏の中には玩具としてのビッグオーがあり、観念的なシナリオと世界観だけの拡張は望んでいなかったというべきか。2004年の今川泰宏版『鉄人28号』は見たとして、どんな感想を抱いていたのやら。
双方、やる気はあるようだが、今更動かしても物語を付随ないし拡張するのはさほど意義あることとも思えず。あえて選ぶなら、玩具として別次元のビッグオーが描かれることの方がよいのかもしれない。

他には各エピソード解説と絵コンテ、DVDとボックス用アートワーク、初期設定資料、『電撃アニメージュ』誌で連載されていたさとう氏によるスピンオフマンガ。これがフルカラーかつ大きめのサイズで拝めるのはうれしい。が、あくまでオマケであり、『オフィシャルガイド』にも掲載されていたものと重複するといってしまえば、そうである。各DVDのブックレットに書かれていた内容なども網羅されていることもなく、各エピソードに対するスタッフの評価などもない。ゲスト声優たちの指名にもちゃんとポリシーがあった、などは中古でDVDなり集めるしかない。次回予告の絵コンテにノーマンのセリフが予定されていたのはおもしろかった。結果としてはオンエア版でよかったけど。

とまあ、アニメ放映当時に作られたムック本の延長といった感じで、冒頭に書いたように目新しさはなかった。この手の周年記念企画はほぼこんな感じなのだろう。アクリルスタンドや複製セル画といったグッズを見ていても、CDをまとめたボックス売りに近いものがあり、作品の価値を見直すような意義はなかった。受け手間でも、『lain』のように若い層に新しい受け入れられ方をしているわけでもない。小中脚本の一端として、いつか振り返られてほしくはあるが。
清川元夢や篠原恵美、石塚運章などのメインキャストが鬼籍に入ったこともあって、なんとも宙づりになっている感は否定できない。思えば『スパロボ』でちゃんとシナリオがなぞられたのも、今となっては運がよかったか?

以下、これぐらい載ってなかったら記念出版する意味がないだろーという要望。

・コミック版作者のありがひとし氏の寄稿(マンガ・イラスト・コメントなど)。メモリー回路を抜かれたドロシーに瞳がうずまきなのは、コミック版のオマージュだと思っている。

・ファーストシーズンで脚本を書いたスタッフたちのコメント。Act.10は特に。

・いわくつきオープニングテーマ「BIG-O!!」作曲者永井ルイ、そしてクィーンのブライアン・メイ両氏のコメント

・クトゥルフとしてのTHEビッグオー論(誰が書くねん)

・『レッドバロン』『ウルトラセブン』といった特撮オマージュをめぐる論考


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(25. 3/23)