直前の更新で申し訳ないのだが、持田保さんが主催する『あなたの聴かない世界』というイベントにトークで参加させていただきます。サイケデリック、オカルティズム、ニューエイジといったエッジな分野に音楽から入っていくイベントで、今回の議題は『England's Hidden Reverse』。そして「オカルト文化とインダストリアル・ミュージック」。浅学で恐縮だが、わずかでも話が膨らむように頑張りたい。今回のトークで触れるであろう面々とその作品については、持田さんがご自身のブログで紹介しているので、参加される方は是非目を通しておくことを推奨します。私もメモを兼ねて、幾つかの作品を挙げてみる。80年代の作品が多いのは、主に触れるであろう時期ゆえに、である。 ◆ Current 93 / In Menstrual Night ◆Earth Cover Earth ◆Meet Their Waterloo ◆COIL / How to Destroy Angels ◆Love's Secret Domain ◆Equinox/Solstice ◆Death in June / The Guilty Have No Pride 元アナーコ・パンクバンド、クライシスの中核だったダグラス・ピアースとトニー・ウェイクフォードらが結成したのがデス・イン・ジューン。音からルックスまでジョイ・ディヴィジョンそっくりだが、あちらが持っていた耽美さは皆無、スキンヘッドに好まれそうな無骨さが目立った。今聴いても強烈なキックを持つ「Heaven Street」は今なおインダストリアルの筋から高評価で、ダウンワーズのREGISもお気に入りだそうだ。ナチスを想起させるイメージを用いるだけならば、当時のポストパンクの一例で終わっていたかもしれないが、ダグラス・ピアースによるオカルティズムや、三島とバタイユから咀嚼した唯物論の理論武装で一つのシーンを開拓する。 ◆The Wörld Thät Sümmer デヴィット・チベットとの出会いでアレイスター・クロウリーらの影響が強くなる一方、メンバーの分散も経てピアースのソロ・プロジェクトになった時期の作品。三島由紀夫とジュネに捧げた大作で、コルグのシンセサイザーによる冷たいサウンドスケープが、それまでのゴス・ロック的サウンドを激変させ、より孤高の存在になっていく。二曲目冒頭の日本語朗読があまりにショッキング。 ◆But, What Ends When The Symbols Shatter? ジム・ジョーンズが率いた人民寺院をモチーフにしたアルバム。それまで均等だったナチズムと北欧神話へのオブセッションが後者に偏ったこともあってか、歴代のアルバムの中でも一際郷愁を誘う。本作の少し前に出たSwansのカントリー・フォーク名盤『Burning World』とも共振する例だ。ホーンや歌い方に至るまでスコット・ウォーカーの『Ⅳ』的なアレンジと、名エンジニア、ケン・トマスによる入念な録音のおかげもあり、最後まで力尽きることのない名盤。 ◆Boyd Rice and His Friends / Music, Martinis, And Misanthropy インダストリアル及びモンド界のタスクマスターにして裏・野坂昭如と言いたくなってしまうボイド・ライスのアルバム。ノイズ・プロジェクトのノンではなく本名名義であるように、彼の世界観が凝縮されたポエム集である。その手本はヒッピーの影響元としても高名なロッド・マッケンだ。機械的にに生きる民衆への警告を、ネロやヒトラーの再臨を渇望するという危険な形で表した「People」、マーダー・バラッド決定版「悲しみのウィロウ・ガーデン」など、デス・イン・ジューンよりも早くネオフォークの基礎を固めた重要作。バックを支えるのはダグラス・ピアースとトニー・ウェイクフォード、そしてローズ・マクドウォール。 ◆Sixth Comm / The Taste For Flesh チベット経由でフレヤ・アズウィンとコンタクトをとったパトリック・リーガス(元デス・イン・ジューン)は、自身のプロジェクトにアズウィンを招き、その筋の教典にもなる『The Fruits Of Yggdrasil』をリリース。以後も二人はライヴを行なうなど、濃密な関係を維持する。この12インチは知り合って間もない頃に出た音源で、ジョイ・ディヴィジョン的なゴス・ロックに、リーガスの歌とアズウィンの詠唱が絡み合う。 ◆TROTH / Nidstang いきなり2016年の作品になってしまうのだが、最近知ったTROTHがフレヤ・アズウィン関係者だったため、紹介しておこうと思う。ベルギーのTROTHはフランク・ギーンズのペルソナ。少年期からポストパンクとサイキックTVのレコードを愛聴していたギーンズは、『The Fruits Of Yggdrasil』によってネオ・ペイガニズムの旅に出ることを決断する。ビジネス・コンサルタントなどの手堅い仕事を続けつつ、フレヤ・アズウィンのFBページ管理人まで勤め、裏から彼女を支える存在となっている。このアルバムにもアズウィンはボーカルで参加、更に私が近年交流しているウェイル・ソング・パートリッジもゲストで参加しているのだから尚更驚いてしまった。パートリッジはボイド・ライスともマブダチなのだが、説明すると脱線しまくるので、ここでは省きます。 ◆Nurse With Wound / Gyllensköld, Geijerstam And I At Rydberg's オカルトもペイガニズムも興味ないよとバッサリなスティーヴン・ステイプルトンについては、今回のトークイベントでどこまで話題になるかは不明だが、先月行なってきた取材のレポートを写真付でさせていただくので、興味のある方はこちらもよろしくお願いいたします。 さて、このアルバムはデヴィット・チベットが参加するようになって間もない頃の作品で、それまでの現代音楽とフリージャズのコラージュ的な内容と少し離れて、アモン・デュール『Psychedelic Underground』的な内容になった。詠唱とも叫びともつかない声が浮き出ては引っ込んでいく不思議な感触を持つ。スウェーデンの作家にして錬金術師、ヨハン・アウグスト・ストリンドベリの著作『オカルト・ダイアリー』にインスパイアされたそうだ。 ◆Soliloquy for Lilith 誕生したばかりの娘に捧げたことでも有名な作品。全曲同じようで実は異なる、天候のような普遍性をも持つ。エフェクターのペダルを17個連結した結果、テルミンが如く敏感な装置となり、そこから生じる僅かなハーモニーと不協和音が封じ込められている。それまで現代音楽のオマージュや幻覚剤の後押しに偏っていたNWWにとって、偶然だけで出来上がった、正真正銘スティーヴン・ステイプルトンの音楽だ。当時のワールド・ミュージック及びアンビエント隆盛の兆しに乗っかったのか、売上も好調で、この時の資金がアイルランド移住の決め手となる。 ◆Cooloorta Moon アイルランドへの移住を祝福するレコード。A面のタイトル曲はヴォルフガング・ダウナーから切り取ったサンプルをループさせつつ、ムーディーなサックスが踊る美曲。こんなポップなNWWがあるのかと、後から知ったファン(私である)も驚き。 (17.11/15) |
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