THE ART AND MAKING OF THE VENTURE BROSが届いたぞ

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『THE ART AND MAKING OF VENTURE BROS』が届いた。米国のカートーゥーン・ネットワーク内に設けられたチャンネルの一つ、Adult Swimで放映されている『THE VENTURE BROS』のヴィジュアルブックで、幾度かの発売延期を経つつ晴れてこの8月に出版された。国内で買えるところはないと思っていたが、アマゾンJPで取り扱っていたので大して待たずに受け取ることができた。高い出費だったが、最後の一冊という巡り合わせには従わざるを得なかった...。

『VB』は2003年2月のパイロット版を経て、シーズン1が2004年8月にスタート、2018年8月からはシーズン7が放映中である。『THE ART~』はシーズン6(2016年)までをエピソード単位で振り返りつつ、キャラクターのヴィジュアル、背景、各プロットのバックボーンを解説している。当然語るのは『VB』の生みの親であるジャクソン・パブリックとドク・ハマー。ワイルドサイドで育ったフライシャー兄弟、アラン・ムーアに浸かったゆでたまご、、、とにかく只者ではない。それはハマーのアーティスト写真を見ていただければ、なんとなく察してもらえるだろう。

とにかく分厚くて大きな版型なので保存はもちろん、読むのにも少し気を遣うパッケージだが、ここまで膨大な資料やトピックがフルカラーで掲載されているのは驚愕に値する。もちろん全部英語で書かれているため、読むにはそれなりの時間もかかるのだが、一つ一つの文は短めなので、さほど苦ではない。しかし、『VB』を支える膨大なオマージュ、作り手らの間でしか伝わっていないとすら思えるサンプリングを丁寧に補足してくれているわけではないため、読む側に多少の知識が要求されるのは否めない。Adult Swimらしいアニメたる所以だ。

『VB』を大まかに説明すると「ハンナ・バーベラ」+「60年代のポップカルチャー(オカルト含)」+「スターウォーズ」+「カウボーイビバップ」+「パルプ・フィクション」・・・etc....収拾がつきそうにないが、とにかく夥しいネタのパッチワークである。登場人物ら本人が現実を上に挙げた映画のように捉える場面(セリフには大量の映画や歴史上の出来事の名称が登場する)も多く、どこか自暴自棄的な面をも携えた作品である。良くも悪くも大味な展開がそれに拍車をかけており、安易なパロディだけに終わってはいないとは思うが、オリジナルな作品として完結できているかと言われると首を縦に振りづらい。自分が散りばめられたネタを受け止めるどころか見落としていることもそう感じる要因だろう。そもそも、まだ完結していない。

本編は未だに国内の動画サービスなどでも未フォロー(Netflixあたりがやってくれないものかな?)だが、Huluなどの配信サービスで過去のシーズンを見ることは出来る、らしい。確実なのはDVDやブルーレイで、前者はリージョンコードの問題をなんとかする必要こそあれど、字幕付で手軽に視聴できる。特にスラングが多く、一見では何を言っているかわかりづらい本作には一時停止と再生は必須。なので私はノロノロと見ております。とりあえずどんなキャラクターが出てるかの紹介をしておこう。

VB最初期のイメージボード  VBの生みの親の一人、ドク・ハマー。かなりの曲者

ヴェンチャー兄弟。左からディーンとハンク ドクことラスティと、ボディガードのブロック・サムソン

ドクの宿敵モナークとドクター・ガールフレンド、その部下ヘンチマン21と24

『VB』はヴェンチャー兄弟とその父親であるドクター・ヴェンチャーことラスティ一家が仲間及び敵役たちと繰り広げる一大スペクタクル・ソープドラマである。舞台は我々が今生きているような現代だが、如何にもアメコミらしくサイエンス・フィクションの要素が山盛りで、宇宙要塞からミュータントといったトピックだらけだ。当然スーパーヒーローとヴィラン(悪役)、互いをアーチ(宿敵)と定める概念もある。
天才科学者兼スーパーヒーロー、ジョナス・ヴェンチャーの息子として生まれたラスティは、幼少時から悪役に追われたり冒険に連れ出さたりする毎日だった。父親とその仲間たちの茶目っ気から死にかけることはしょっちゅうで、数々のトラウマとヴィランの恨みを買っている。ジョナスが死去し、遺産とスーパーヒーローの地位を受け継いだところから物語は始まる。
ラスティは自身の安全と息子であるハンクとディーンを守るため、歴戦のボディガード、ブロック・サムソンを雇った。ブロックはキレると手が付けられない巨漢だが、思慮深く慎重な面を持つため、兄弟にとってはラスティよりも父親らしく映るのだった。ラスティが作った高性能お手伝いロボ・ヘルパー、ラスティに憧れて研究所に転がり込んできた元天才クイズ少年ビリーと、そのアルビノなパートナー、ピート・ホワイト(アマチュアDJ)、元ヴィランで現在はヴェンチャー・インダストリーの防衛も受け持つ自警組織O.S.I.(ブロックも隊員の一人)の一員であるヘイトレッド軍曹、魔法であらゆることを解決(時に大失態)する魔術師、オーフィアスとその仲間たちが主なヴェンチャー・サイドのキャラクターである。

対してヴィラン側。主人公と言っても差し支えない存在感を放つのは、ラスティを執拗につけ狙うマイティ・モナークと、そのパートナー、ドクター・ガールフレンドたち。蝶をモチーフにしているはずが所々蜂になってしまっているモナーク軍団はヘンチマンと呼ばれる兵士たちで構成されている。ヘンチマン21号と24号は物語の狂言回しとしても活躍する。現在のシーズンでは単純な敵味方という構図は解消され、ラスティとモナークは時に追いかけあい、時に一緒の窮地を過ごす仲となっている。今まさに放映中のシーズン7では二人の因縁が明らかにされつつある。

さて、ここからは各シーズンのあらすじを大まかに説明する。私の英語力と読解力では細かいところに違いが出ているはずなので、本当に粗い紹介になることを断っておきます。


◆Season 1 (2004)

パイロット版を経てスタートした記念すべき最初のシーズン。ブラックユーモア、お下品な描写など、大人向けの局で放映される番組らしいショッキングな描写がちらほら。のちのシーズンと比べると単調というか、『サウスパーク』の二番煎じ的な場面が目立つ。この調子が続いたのであれば、今ほどの人気作品にはなれなかったであろう。
作画のクオリティは今と比べると大きな差があるため、一から見返すのはなかなか厳しいかもしれない。 シナリオは『インディ・ジョーンズ』など素直なパロディが多い。人気キャラクター、モロトフ・カクテル(ブロックの元恋人にしてライバル?)も登場。最終回では『スーパーマン』と『イージーライダー』のオマージュでヴェンチャー兄弟が◎ぬ!

◆Season2 (2006)

上で伏せておいてなんですが、実はクローンであったことが判明するヴェンチャー兄弟。代わりがいくらでもいるという衝撃の展開に、それを当たり前とするラスティたちのぶっ飛んだ倫理観が炸裂。この設定については、シーズン5の後に作られたオマケのアニメーションでラスティが話す「愛する家族を失った時、我々に何ができる?悲しむこと?違う、生まれ変わらせるのだ。それがヴェンチャー流だ!」というセリフに集約される。
ブロックの元上司ハンター・ギャザー(ヘルズ・エンジェルズのレポートで知られるハンター・トンプソンがモデル)、ハンクが抱くバットマンへの執着、独特の立ち位置にいるドクター・キリンジャー、そしてヴィランの一大ギルド、カラミタス・インテントを統べるサヴリン(総帥)ことデヴィット・ボウイ(と子分のイギーとクラウス・ノミ!)など、登場キャラクターの濃さは青天井。特にモナークとドクター・ガールフレンドの結婚式を邪魔しにきたファントム・リムとボウイ・ヴェンチャー連合軍の戦いはシーズン2のラストを飾る大スペクタクルである。
ハンクの「ヒーロー」への固執や、ディーンの過剰な妄想癖(夢の世界でオビ・ワンばりの大活躍)など、兄弟のパーソナリティも細かく描かれるようになってきた。でも、一番やばいのは『ジョニー・クエスト』のジョニー本人が出ていることだな。版権元が同じだから、イメージを壊さない範囲という制約のもと、年老いたジョニーが登場。


◆Season 3 (2008)

出るわ出るわ新キャラクター。まずはハンター・ギャザー率いるO.S.I.のメンバーたち。オネエ系の兵士ショア・リーヴ、ハンクの唯一の友人となるダーモット、声とチャーミングな挙動がくせになるドクターZ、モブキャラではティモシー・リアリー、ラクエル・ウェルチ、サミー・デイビス・ジュニア、バディ・ホリー、オスカー・ワイルド、アレイスター・クロウリーまで登場だ。ストーリーはラスティが生まれるずっと前に遡り、かつてジョナス・ヴェンチャーの先祖もギルドにいたことが明かされる。ここからアメコミ特有の後付けの嵐で、正直人間関係が把握できません。『ヴォルトロン』よりも早く『ゴライオン』、超電磁ロボシリーズをパロったヴェントロニックも見もの。
最後のエピソードではヴェンチャー兄弟のクローンが片っ端から殺されてしまう超ショッキングな展開に。さらにはヘンチマン21の親友、24までも・・・。物語が途端にシリアスになり、ハードな展開が続く次シーズンへの露払いとなった。


◆Season 4 (2009)

2クールに渡って放映されたシーズンで、当時『VB』の人気が不動のものになっていたことを証明している。シナリオはかなり強烈なものが多く、ディーンのクローンが己の不遇を嘆き、ディーン本人を襲うシナリオは後味の悪さが凄い。
ディーンのクローンがラスティ(父親)へと抱く愛情は、ブロックというボディガードを失ってしまったハンクを通しても描かれる。O.S.I.の同僚たちと新たな武装組織スフィンクスを結成したブロックは、ヴェンチャー一家のボディガードを抜けてしまったのだ。とはいえ要所要所で付き合うため、特に変化はない。このあたりは作者側も上手く扱えていないような気もするが・・・。プログレのレコードを聴くことで覚醒するシーンなど、マニアックなユーモアは相変わらず。
シーズン2でボウイらに反旗を翻したファントム・リムが再びギルドに復讐をけしかける「リヴェンジ・ソサエティー」はロキシー・ミュージック時代のイーノまで出てきてムチャクチャです。
終盤のシナリオ「アシステッド・スーサイド」はラスティの魂へと入り込み、彼のタナトス、エロス、エゴ、イド、スーパーエゴら(上の写真)と対話するというVB流精神分析学が繰り広げられる屈指の怪シナリオである。
最後のエピソードはパルプの「Like a Friend」をバックに大団円。この展開はyoutubeにもアップされている。
狂いっぱなしの「アシステッド・スーサイド」に登場する面々


◆Season 5 (2013)

前シーズンから4年もの歳月を空けて作られたシーズン5は、今になって振り返ると伏線の回収に悩んでいたように見える。かと思えば、新たなシナリオの種をまいたりと大忙しだ。今シーズンからブルーレイが発売されるようになった。
O.S.I.がカラミタス・インテントの所在を突き止めるべく奔走するシナリオがいくつかの形で描かれるが、そこに新たな敵役インヴェスターズが登場する。不気味な黒と赤のストライプスーツをまとった初老の男三人組で、仕事仲間だったヴィラン・モンストロソ(過去のシーズンでO.S.I.に捕らえられてしまった)を処刑するなど、残虐かつ冷徹な性格が強調されたキャラクターだ。
カラミタス・インテントを形成する議会・カウンシル13への正体を探るため、ヴィランしか入れないナイトクラブに潜入するシナリオ「Bots Seeks Bots」は珍妙なエピソード。
モナークと縁を切ったヘンチマン21ことゲイリーはスフィンクス入隊を志望するが、そのスフィンクスは結局O.S.I.として再統合されるため、ゲイリーは孤軍奮闘することになる。最終的には住処にしていたモナークの要塞も破壊されてしまい、モナークとドクター・ガールフレンドらと一緒に、とあるオンボロ屋敷を根城に決めるのだった。
最後のシナリオ「デヴィルズ・グリップ」では、ディーンが自身の生い立ち(クローンの一人であること)に悩み、それを打ち明けられたハンクは自分がSFの主人公のようでかっこいいと、その事実を笑い飛ばす。自分たちがどこから来ようとも、目の前にいる家族や友人は変わらずに接してくれることを良しとして、シーズン5は終了するのであった。ジョナス・ヴェンチャーの盟友、アクションマン夫妻がビリー・クイズボーイを息子のように可愛がるなど、血の繋がりに縛られることのバカらしさを否定している・・・のだが、そこは素直な教条に落ち着くわけもなく、親の因果が子に報うこともしっかり描くのが『VB』。その辺りはシーズン4でくどいくらいに描かれているので、こうした終わり方に落ち着いたのだろうか。

◆Season 6 (2016)

シーズン6は1クールの放映がされる前に長尺のエピソードが公開された。
『All of this Galganture2』がそれで、この回でそれまでのストーリーはいったんの区切りがつけられた。シーズン6は舞台をニューヨークに移し、新たなシーズン1として作ったと『THE ART~』には書かれている。例えばシーズン4からボディガードを離脱したブロックは、再びヴェンチャー一家の身辺警護に復帰し、壊滅した元ヴェンチャー・インダストリーも同じくニューヨークに移ることで、より豪華な設備になった。ヴェンチャー兄弟は大学に行ったり、ヴィラン側の女性とイイ感じになったりして、青春のニューヨークを満喫・・・できるわけはなく、モナークなどの闖入に悩まされる毎日である。

上でも少し触れたように、シーズン6からモナークとラスティの因縁を解き明かすフェーズに入った。犬猿の仲であるモナークとラスティだが、何故か幼少時の二人が遊んでいる写真が発見され、そこにはジョナス・ヴェンチャーと、モナークの両親らしき人物が写っていた。この父親の方こそ、シーズン6でキーとなるヒーロー、ブルー・モルフォで、モナークは自身の根城であった要塞が破壊されてしまった先で見つけた廃屋の地下に、モルフォの秘密基地を発見する。そこにあるホームビデオとブルー・モルフォの装備一式が、モナークとヘンチマン21ことゲイリーを導き、二人は新生ブルー・モルフォと、その助手ケーノとなるのだった。当然グリーン・ホーネットとカトーのパロディである。ブルー・モルフォとなったモナークはドクター・ガールフレンドに取り入って、新生カラミタス・インテントを牛耳ろうとするヴィラン、ワイド・ウェールらを暗殺しようと試みるが、最強のヴィランの一人に数えられるレッド・デスに睨まれるわ(のちに和解)、正体を知らないドクター・ガールフレンドに勘違いされて命を狙われるなどの大ピンチ。

シーズン6から登場するヴィラン、レッド・デス 左からケーノ、ブルー・モルフォ、ジョナス・ヴェンチャー

◆Season 7 (2018)

そして先日まで放映されていた最新シーズン。前期からシームレスに続いていく物語のようだ。部分的にアップロードされている本編をyoutubeでチラ見した程度なのだが、ドクター・ガールフレンド、ファントム・リム、ドクターZらが『All of this~』で解体してしまったカラミタス・インテントの再建を目指す一方で、モナークとゲイリーは自分たちを高レベルのヴィラン(お布施や、地位に見合う功績を積むことでランクアップできるのだそうだ)にするべく、ヴィランのトレーナーを買って出るなど大忙し。
しかし、もっとも衝撃的なのはラスティの父親であるジョナス・ヴェンチャーが有機コンピュータとして生き永らえ、ヴェンチャー・インダストリーのビル全体をパニックに陥れるエピソードだろう。暴走するジョナスを止めに入ったのは死んだはずのブルー・モルフォ、そしてその正体は・・・本編を見ている人が全くいないであろう、この場所で隠す意味はそれほどないのだが、ぜひとも本編をご覧いただきたい。というか、私も早くブルーレイが欲しい。

ヴィランを統べる総帥はボウイ(そのまんまの名前で登場) 



15年にも及ぶ歴史があるだけに、今更シーズン1からローカライズされる望みは薄い。ちなみに『リック・アンド・モーティ』はNetflixで日本語吹き替えが放映されているが、あちらはまだ始まって5年である。
『ニンジャ・タートルズ』みたいに歯抜けでも構わないので、なんとか輸入されないものだろうか?翻訳があまりにメンドくさいだろうから、TMNTのようなアドリブ台本だらけにされても興ざめですけどネ・・・。
それと、劇伴はFoetusことJG Thirlwellが一貫して担当しており、氏の素養と理想がギュッと詰め込まれた傑作スコアなので本編を見るより先に触れてみても良いくらいです。ジャクソンとドクによる往年のロック名曲のオマージュも捨てがたい。