SCOOBIE DO ダンスホール野音 苦しんでくれてありがとう

リハーサルでRIDE ON TIMEしてました
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所用で田舎に一瞬だけ帰った。突如発生した野暮用のせいなのだが、もともと10月は東京に行く別件があったた良い機会でもあった。というわけでトンボ返りの上京でありました。不安だった野暮用も円滑に進み、すぐに開放されたので日曜の昼前から東京砂漠へと帰還したのだった。引っ越してからまだ10か月しか経っていないのだが、もっと前に感じる不思議。新宿は平常運転といったところで、久々に使った立ち食いそばと模索舎さん、新宿御苑、そして新宿ディスクユニオンを巡回した。特に催しなどは確認できなかった。

本来の目的はSCOOBIE DO(スクービードゥー)の結成20周年記念ライブ『ダンスホール野音』で、こちらは日比谷の野音で行なわれるものだった。発表された時はまだまだ先だと思っていたが、気付けば当日となっており、今年で初めて月日の流れを早いと感じた。楽しみにしていると、逆に早くなったように感じるのは歳のせいか。
今回はバンドの結成20周年以外にも特別な意味があった。それはレーベルから独立した時のまま、つまり現在までメンバーチェンジや活動休止を経ないまま節目の年を迎えたことで、こちらの方が大きいと言っても過言ではない。現在はインディー体制というか、目に見える又は手が届く範囲だけで活動していく慎ましいスタイルが多くなった。bandcampといったサービスをフル活用したり、小さな規模のライブを繰り返すなど方法は様々だが、会社勤め以外の選択肢をとる人が増え、アーティストの数が爆発的に増えた(だからこそメジャーレーベルに在籍する意味も増すのもあるが)。スクービーは早い段階からこのスタイルに移行していた。彼らは06年にメジャーレーベルから契約を打ち切られ、その翌年にチャンプ・レコーズを設立。リリースからライブまで自分たちで管理し、今日まで経営を続けている。
2年ほど前にラジオ番組『ウィークエンド・シャッフル』に出演した時、MCの宇多丸から茶化されつつも、そのタフネスとビジネス(との戦い方)を語っていたが、身の丈に合っている今の方法に満足しているようだった。
そんな弱小企業(自称しています)が生きながらえ、メジャー在籍時代に挑戦した(そして振るわなかった)野音に再び挑む。嬉しいのはもちろんだが、それ以上にスリリングだった。言い伝えではあるものの、また客入りが少なかったら彼らはどんな態度をとるのだろうかとも思った。
自分がスクービーを気にかける理由にこのアンバランスさがあった。楽曲に充満する、彼ら言うところのラヴ、ロックンロールといったテーマ。カビが生えたどころではない、クリシェとも言えないこれらが如何に危ないバランスで立っているか。素晴らしい作曲や、表面上は聞こえの良い言葉が並んだ歌詞から強い孤独を感じるのは何故なのか。それを確かめるためにも、自分は野音へ行ったのだった。

天気は快晴。秋晴れという他ない天候で、焼けた雲のふちが眩しい。席は上部で見通しの良い角度。周囲の客はこれぞ労働者と言わんばかりに、日々頑張っていそうな方々。20年ともなると、ファンの高齢化も仕方ないのか、子連れの方も多く見られた。子連れ用の席は前方が空席となっており、この辺りの気配りが良かった。スタッフの経験から来る案だろうか。物販はスルーして、飲酒したまま開演を待つ。開場時のBGMはライムスターやフラワーカンパニーズといった盟友たちだった。

BGMがフェードアウトし、出囃子のアート・ブレイキーと共に4人が出てくる。普段とは少々違ったえんじ色のスーツ、ボーカルの小山周だけはいつもの白スーツであった。プロレスのパフォーマンスを交えた動作、そして投げキッスと、お決まりのサインをファンへと送り、これまたお決まりのシャウトとコールでライブが始まった。
今回のライブは今年の初めに出たベスト盤『4×20』に即したセットリストだった。いわば、定番曲だけで固められたもので、ライブでは確実に聴けるようなナンバーだけで構成されていた。一曲目は「バンドワゴン・ア・ゴーゴー」。自分らの血肉を赤裸々に公開した『何度も恋をする』からのリード曲である。周りがするもんだから、手拍子してもうたよ。無表情で...。
長く聴いているだけあって、歌詞も自然に出てくる。恥ずかしくて口に出せないようなフレーズの数々にめまいを覚えた日々は過ぎ去り、いくらでも浴びせて欲しいとすら思う時がある。まるで自分の代わりに叫んでもらっているような気すらする。
ライムスターを招いた曲「What's Goin' On」はスクービーのみで歌われるバージョンで披露された。何度かやっている試みだそうだが、目に耳にするのは初めて。リーダーこと松木泰二郎の真面目すぎるラップが笑えて良い塩梅だった。コール&レスポンスに徹底した「PLUS ONEMORE」は生では初めて聴いたが、ムーンウォークもどきからステージ端の横断まで全部が全部計算済で、ここに小山のプロレス美学が発揮されている。見ていて不安になるくらいにオーバーだが、それは決して思い付きなんかではない、自信と経験が為せる芸なのだ。


メロウな曲を、ということで披露された「ゆうべあのこが」、「ミラクルズ」、そして「茜色が燃えるとき」は素晴らしく、とりわけ好きな曲だったこれらを聴けて感無量。特に「茜色」はファンになったきっかけでもあるので、これを生で、記念すべき場所で聴けただけでも価値があった。ちゃんと「今に」と「そう」を叫びましたよ。恥ずかしかったけど。
MCは再び過去の話へ。向井秀徳への感謝を込めて共作した「ROPPONGI」を挟み二つの将来への不安が吐露された。一つはレーベル契約打ち切り時に抱いた将来について。もう一つはつい最近の震災直後の将来についてだった。前者は言ってしまえば食いぶちの問題だが、後者は表現者にとっては核心に近づく問題だった。当時頻出していた不謹慎だとか、貴重な電力云々に対しての指摘に狼狽したことを打ち明けていたわけだが、インタビューではこうした話題に触れることが少ない彼らにとっては貴重な瞬間である。ナーバスな話題故に、触れないことでこの問題を解決しているバンドが数多い中、彼らが出した答えは単純明快、求められるのならばやる、というものだった。文字に書き起すと鳥肌が立つほどに偽善的に見えるかもしれない、「待っててくれるファンのため」という宣誓は、そのまま自分たちへ言い聞かせているようにも見えた。同時に自分がスクービーを支持する理由はここであるとも再確認した。彼らのファンは我々だけではなく、彼ら自身でもあること。独立するという決断を、世相がどうであろうとファンがいるところで演奏するという決断を正しかったと証明するために、今日まで彼らは生きてきたのだと。そこにはMCで連呼されるラヴ、ロックンロールひいて音楽は素晴らしいといった赤面モノの言葉に隠れた不安が見てとれる。あらゆる場面で保証を求める我々にとって、この臆病さと威勢の良さの危うい関係ほど心強いものがあるだろうか?両者は相反するものではない。交わりはしないが、切り離せるものでもない。臆病さがあるからこそ勇気を知ることが出来るし、その逆も然りだ。
不安と感謝を吐き出すと、客席からもありきたりな、それでいて当然の声が飛び交う。荒げた「やれ」だの「鳴らせ」といった声に、いつもは大きな声又は軽い口調で返していた小山が小さく「おう」と返した瞬間は忘れられない。「月光」、「最終列車」、「イキガイ」、誓いの三曲が演奏された。

言いたいことが言えたからか、より快活になった夜。独立後の彼らの曲で最もポップな「真夜中のダンスホール」と共に、照明とミラーボールが会場を照らした。フックで横にステップするのがお約束の曲で、恥ずかしいったらないのだが、想い出作りに、先ほどのMCで見せた誠意へ応えるためにやっておいた。
「PLUS ONEMORE」の弟とも言える新曲「LIVE CHAMP」や「Disco Ride」、「Back On」といった佳境にふさわしい曲の数々。後者ではカッティングなんてレベルを超えたノイズを出すギターと、打楽器のように扱われるベースによる大道芸が披露される。締めくくりは20周年を記念して作られた「新しい夜明け」だ。東京スカパラダイスオーケストラのメンバーが参加した曲だったが、今回はゲストとしての出演はなし。それどころか、今回は全ての曲において客演はゼロ。定番である「Thighten Up」といったカバー曲もなかった。全てファンキー4、スクービーの4人だけで歌われていた。ここに今回のコンセプトと彼らの勇気が見て取れる。ここまでやってきた4人だけで、晴れ舞台をやり遂げる。自分たちがいつもやってきた演奏をするという決断。前回のように盛大なショーを同志たちと共に繰り広げるのではなく、自分たちだけで作り上げるという挑戦は見事に成功していたと思う。
アンコールはメロウ(「つづきのメロディー」)、ファンク(「やっぱ音楽は素晴らしい」)、ロック「Little Sweet Lover」)という自己紹介三部作となっており、ラストは観客たちにもマイクを渡すサービス、ひいては感謝を見せてくれた。「Little Sweet Lover」で放たれた「I Love Youと馬鹿野郎を同時に叫ぶのがロックンロールだ」、「I Love Youを言う時は気取ってちゃいけねえんだ」、「馬鹿野郎と叫ぶときは怯んでちゃいけねえんだ」。これらの青臭すぎる言葉は、やはり彼ら自身へと向けられた檄でもあった。安っぽい応援や共感を投げているのではない。自分が信じるためにこれらの言葉と格闘すること。それこそがスクービー・ドゥーの挑戦だった。そして我々も大小含めて、こうした格闘の末に決断して生きているはずだ。自分では気付けないが、スクービーは教えてくれた。

2度目のアンコール。MCを挟まず、ただ一言だけ添えられた。「俺たちのデビュー曲、聴いてください」。何千回と聴いた「夕焼けのメロディー」だが、リリックを一節ずつ追いかけては歌ってしまっていた。恐らくは、初めてライブで聴いた時と同じように。

スクービーが毎日のように歌うラヴ、ロックンロール、夢、その他有象無象の希望。素直に信じられるほど純粋でもないし、そんなものの押し付けはご免こうむる。自分がバンドマンに求めているのは、葛藤、もがき苦しむ姿だ。スクービーは自分たちが追い求めるものに励まされつつ、苦しめられる。平凡かつ退屈な人生を歩む自分はその姿にこそ魅了される。

退場の時間になった時、誰もいないステージに向かって一言。
自分の分まで愛してくれて、苦しんでくれてありがとう。

15.10/7
SCBD