captainhowdie (Randal's Friends) インタビュー 『FEECO』vol.1 掲載分(2018) + α

『FEECO』創刊号収録の記事でもっとも復刻というか公開の要望が大きかったのがcaptainhowdieのページであった。カナダのどこかに住み、それ以外の情報は一切不明。自らのキャラクターのぬいぐるみを自作し、日本の雑誌や食べ物、アーケードゲーム筐体の写真をアップしたかと思えば、大橋純子「Telephone Number」をバックに自前のスケッチブックを開いていく動画を無言で投下するなど、その行動は予測不能。そんなcaptain(こう呼んでるのは筆者だけか)が2010年代後半からwebサイト上で公開・更新しているコミックが『Randal's Friends』(『Ranfren』)。TumblrやDeniant Artのようなイラスト系SNSに局所的なファンアート潮流を生み出し、Instagramなどでハッシュタグ#ranfrenをのぞいてみるだけでもその小さな熱を確認できる。
captainの個人サイトではびこる残像は、ブロードバンド到来直前直後の時代、よりかみくだけば2000年代前半インターネットのそれである。ここだけならばミーム的に共有されることを宿命づけられたvaporwaveなどの現象の一端と括られそうだが、あくまで自宅こと個人サイトに留まり続けるところにcaptain個人のノスタルジア≒作家性のようなものを感じるのである。幼少期の記憶の庭に鎮座している点では、Ghost Box RecordsやBoards Of Canadaのような憑在論的アーティストたちの方が近いかもしれない。このページでは本人承諾のもとインタビュー記事を再掲(訳はほぼ一から手直し+未掲載部分もあったので追記)し、確認をとった際に教えてもらった近況も加筆している(2023 3/16)。以下のインタビューに出てくる固有名詞、というか『Randal's Friends』のキャラクターにおいてはこちらを参照。English version is here:


-ランダルたちの日々が指すものとは?

彼らのコンセプトは眠っては起きることと同じくらいシンプルだけど、それらは決まった時間通りに行なわれるわけではない。やりたいと思った時に『ディディーコングレーシング』をプレーしたり、新しい友達と会ったり、生きることの意味を考えたり。ルーサーのペットは自分たちのルールの下で快適に暮らせればいいと思っているけど、ランダルにはそれが退屈なので、彼はより面白いもの(くだらないものだけど)を求める。

-彼らを描き出したのはいつですか。

2010年。色々なキャラクターを描いてるうちにランダルがやってきた。最初からランダル・アイヴォリーという名前だった。

-あなたは(そしてランダルも)90年代の日本のカルチャーがお好きですが、どのように映りますか。

(90年代は)携帯電話が当たり前になる以前の時代で、当時の風景やそれが持つユニークさの描写に関心がいく。今日ほど制作環境にコンピュータが使われていないせいか、アニメのキャラクターデザインやアニメーションにはノスタルジーを覚える。『新世紀エヴァンゲリオン』のような作品は背景から着色まで手描きのセル画なので、 その表現全体が心地よい。作り手にとっては大変だろうけど。
 ランダルの場合は彼の周りにあるもの、たとえば外出先だったり兄のルーサーづてに90年代的なモノを見つけるけれど、彼の興味はVHSテープのような古いメディアに限定されている。スマートフォンなどの現代的なメディアに触れることもあるけれど、そういう機会は少ない。服装は古い学生服のように見えるけれど、襟元を見ればわかるように(笑)白いシャツの上に黒いシャツを重ねているだけ。とはいえ、これ以外にも古臭いファッションが多いから、わかっててやってるんだろう。

-今日、日本の作品で好きなものはなんですか。

最近のお気に入りはヴィジュアル・ノベル。特に『ひぐらしの泣く頃に』と『ダンガンロンパ』シリーズが好き。アニメを見るよりもゲームの方に夢中で、キャラクターの作り込みや、作品そのものを体験する点においてはアニメより徹底していると思う。活発なインディー・カルチャーを眺めるのは楽しい。『東宝 Project』も2010年から遊んでいて、ZUNさんの作ったゲームが好きだから、新作もプレーし続けている。カナダでこれらの作品を入手するのはちょっと難しいので、オンラインショップなどウェブを経由して買っている。

-普段聴く音楽にも何かこだわりが?

たいていは様々な『東方』リミックスを流している。でも、作業中はより集中できるのと、ストーリーを描く上でのインスピレーションにもなるから、ナレーション付のホラー作品をyoutubeで再生することが多い。音楽ではThrrobing GristleやAphex Twinのような、アンビエント、インダストリアル、エクスペリメンタルと呼ばれている音楽が作業時に合う。

-2018年になりましたが、あなたとランダルたちに予定があれば教えてください。

去年はぬいぐるみを作ったり、アナログのペイントに手をつけていたので、もっとコミックを描きたい。去年の抱負は『Ranfren』の単行本を出すことだったけど、以前ジンを作る時に使った印刷所はなくなってしまったようなので、新しいところが見つかれば今年中に出る (笑)。ランダルの予定だけど、彼は別の兄弟を探しにお化け屋敷に行ってしまった。 たぶんそこから何か見つけてくるんだと思う。

ブライアン・アダムス「Summer Of '69」を歌うランダル

上記インタビューから5年の月日が経った。『Ranfren』のエピソードは盛んに更新され、あるエピソードからはランダルの夢の中にのみ存在する少年Tsukada Satoru(Satoruは聖と書くようだ)が登場する。アイヴォリー兄弟一行の前に現れたヒッチハイカーなど、密やかに、しかし確実に広がりを見せる明晰夢的ユニヴァースの展開について少しだけ尋ねてみた。


-この5年で『Ranfren』の世界も拡がったように見えます。

スケッチブックにはシナリオの筋書きがたくさんあるのだけど、キャラクター自身が動き出すこともあって、それも描く上の楽しみになっている。

-Tsukada Satoruは『Ranfren』のエピソード単位、そして世界観そのものがLucid(明晰夢的)であることを思い出させてくれますよ。

Tsukada Satoruはランダルの夢の中にたびたび現れる人物。ランダルの能力が彼を呼び、やがて自分の意識を持つようになった。だから夢、それもランダル自身の夢の中でしか「本来の」彼に会うことはできない。だからといって、他のSatoruがニセモノだということはない。

-以前Aphex Twinのようなテクノが好きだと話していましたけど、Boards Of Canadaはご存じですか。夢を創造における起点にしているところがあなたの世界観と似ているのですが。

まだ聴いたことないけど、たまに知らない音楽を聴くのが好きなので、いずれ調べてみる。確かに子供の頃の記憶や夢は素晴らしいテーマだと思う。

-最近のランダルのセリフで一番好きなのは「Do Dark Things At The Walmart」なんですけど。

ランダルが現実世界でいうウォルマートのような地元のお店から出入り禁止になるエピソードがあれば面白いかな。

-今後の予定など、読者たちに向けて何かメッセージがあれば。

これまでも今も将来について考えるのはあまり得意でないけど、キャラクターたちをフィーチャーしたコミックなどを作り続けたいと思ってる(´・ω・`)
創作上では「もし、このキャラクターたちが対戦格闘ゲーム、あるいはヴィジュアルノベルになったら?」 から始まる。勝敗が決まった時のアニメーションがどんな風になるのか想像しながらアートやアセットを作るのが好きで、自分も楽しんでいる(´・ω・`)
キャラクターや彼らがやりたいことに基づいた独自のストーリーを作ることが創作意欲へと繋がる。仕事でやっているわけではないから思うように進まないこともあるけれど、それは自分が外の世界と関わりながら学び、そこから影響を受けて自分の芸術へと戻ることが好きだからでもある。自分はかなり直感的な...infp(※)な性格だということ(´・ω・`)

INFP..."内向的(introverted)、直感的(intuitive)、感情的(feeling)、展望的(perspective)の頭文字をとったものである。繊細で創造的、理想主義的であり、夢想家に分類されると考えられている。" Dictionary.comより引用・翻訳


back