今年はかなりマバラです

ツ イート

サヨ族 / サヨ族誕生
宮岡さんによる、分水嶺とはまた別のプロジェクトであるサヨ族。私にとってはこれこそがトライブ・ミュージック、コミュニティという形にならない精神的な繋がりを導く音楽だ。即物的な連帯の強制に耐え難いからこそ、こうした表現に救われる。
燻裕理 / キャラメル・ドラム
朴訥とした歌、ドライな録音のせいか、叩かれる度に舞う埃が目に浮かぶドラム。現存する古サイケの権化。ラリーズのカヴァーあり。ソルマニアの大野さんによるジャケットも素晴らしい。
Koki Fujinaka × SEGUE-4 / 再演される03
Segue-4と現代美術家のコラボ。一つの台本を何度も録音し続けるパフォーマンスは、ディーター・ロスの『ベルリナー・ワークショップ』を思わせる。あちらは朗読するたびに飲酒してまた朗読するという、当時ならではの挑発性を持っていたが、こちらはそうした虚飾に繋がる要素を排したドライな態度を持って「変化」を浮かび上がらせようとしているように見えた。
Shuta Hiraki / 白炭
物語性のあるコラージュで、同作者のディスコグラフィでは群を抜いて映像を喚起させる。迷いなく進む展開は、昨年の『Voicing Oblivion』と対照的で、互いを補完するようにセットで鑑賞している。デジタルは黒塗りジャケット、アナログはホワイトビニールでリリース。
『FEECO』3号では『Voicing~』と共に短い文章を書いている。
Café Kaput / Commentaires
クラフトワーク的なイージーリスニングだが、奇をてらったとかではなく、これぞジョン・ブルックスの本懐である。録音もかなり良い。
New Age Steppers / Avant Garding
未発表音源集。説明不要のUKダブクラシック、可もなく不可もない様が心地よすぎ。タイトルはクラブの環境下で味わってこそ実感できるというものだろう。
Ghost Funk Orchestra / An Ode to Escapsim
『FEECO』3号でも取り上げたモンド風オーケストラ。「これは現実逃避だ」と宣誓するのは予防線ではなく、逆説的に現在を描き出す意図がある。アーロン・ホロウェイといい、ノアールのBGM風ジャズの名作が忘れた頃に現れる気がしてならない。
Ayami Suzuki & Leo Okagawa / Undercurrent​/​Wanderlust
声とエレクトロニクスの共演で、二つが溶け合って一つの音響となる過程が実に鮮やか。ライブ音源というのが驚きというか、演奏している様子が想像できないから実際に体験してみたくなるという気にさせる点でNWWのライブに近い。
うすらび / Remains of the Light
PSF的サイケデリアと形容するのは簡単だが、そこに清涼感、かつてテレビから聞こえてきた音楽が持っていたようなそれが同居している不思議な一枚。流行歌もアンダーグラウンドで生まれる表現も、本質的に共有している要素があり、実は同じ到達点なのではないかと考えてしまう。「ラジアルループ」を聴いたら、そんな純朴な気持ちも芽生えるというもの。宮岡さんの「終古のオミット」や静香のLPを出したフランスのan'archiveからリリース。同2作と並んで大・大・大推薦。
Cutty Scooner / Cutty Scooner
1曲を除いて、造った言語で歌っているという不思議なEP。宅録テイストだが、ローファイではない。サイケデリックとも違う。新曲を少しずつ発表しているが、本作とやや離れつつある、その変化の過程も含めて見逃せない。
CHILDISH TONES feat. 宇佐蔵べに / GOD BLESS THE GIRLS
DECKRECのネモト・ド・ショボーレ氏のトイポップなバンドが、avandonedのボーカルを招いて制作したアルバム。「恋のホワン・ホワン」カバーはチップマンクス風コーラスまでくっついてきて、90年代のモンド好きまで狙い撃ち。変なあざとさがないのは、当時を見ていた人だからこそ、か。ピチカート・ファイヴのような純ポップス方向に向かなかったのはたぶん正解。
Nurse With Wound/ 3 Lesbian Sardines
『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』をスティーヴン・ステイプルトン本人に献本したところ、翻訳ツールを使ったのかザックリと中身を読んでくれたようで、手紙と共にこのCDが送られてきた。今後発売予定のライブアルバムで、2019年のオスロで行なわれたパフォーマンスが収められている。リズム、ノイズ、アンビエントタッチなドローンと、欲張りな展開にうっとり。
終古のオミット/ 秘密の回顧録
分水嶺やサヨ族の宮岡さんの別ユニット。ライブテイクだが、分水嶺のそれ以上に原始的で、演奏しているさまがまったく想像できない。大音量で鳴っては部屋を飛び出してどこかへ飛んでいく、音の性そのものが入ったレコードだ。
Call Super/ Every month teeth missing
コール・スーパーの新作が出ていたと知り購入。2017年のアルバムほど音色重視ではないが、ソフトな仕上がりは変わらず。クラブ映えしない音響が否応なく身近になる世界に出てくるのも必然と思えるアンビエント。
Scoobie Do/ 夏にはいいことあるだろう
ひっくり返ったRCサクセション「いいことばかりはありゃしない」にして、今の時代における同曲に値するサマーアンセム。ライブ録音は2021年4月のコヤマシュウ生誕祭からで、レア曲多め。
The Tiger Lilies/ Requiem For A Virus
タイガー・リリーズがパンデミック下に出した哀歌。こんな時に歌わずして吟遊詩人は名乗れない。悲しくなければやりきれない人類への餞別にして、生きる理由を考えさせてくれる音楽のような気がした。
YOU THE ROCK★/ WILL NEVER DIE
ユウザロックの新譜がTHA BLUE HERBのレーベルからリリース。O.N.Oのビートにぴったりな圧のある独り言が続く。生きているだけのことだけでもスゴイことなんだ。
JOSEPH BEUYS + PISSOFF / CREAMCHEESE DUSSELDORF
かつてフローリアン・シュナイダーも加入していた即興パフォーマンスグループとボイスの競演。参加していたエバーハルト・クラネマンが持っていた録音のようだ。過激であることが一つの理想であった時代のピークを捉えた貴重な一枚。フランスのRotoreliefから。
野佐怜奈とブルーヴァレンタインズ/ Once in a blue moon
ナガイケジョー氏が参加していることから購入したアイドル、というか女性シンガー?のアルバム。色々なコンセプトでリリースしているが、どれが本来の姿なのかわからない。ウクレレも演奏しているようだが。このアルバムはいわゆるディスコブギー、ファンキー和モノ路線。
V.A. / Ultimate_Collection hydrocycle on a lake
「時の崖」レーベルのコンピレーション。多種多様な電子音響がパッケージされている。不協和のループ、フィールドレコーディング、グリッチノイズ、オルガヌムを彷彿とさせるドローンなど。どれにパンクを感じるか、各々が分水嶺。
Andor/ Go Go! The Year of the Cow
おなじみAndorの新作は、かつてないくらいにポップで起承転結のある曲が20曲以上。成分は同じだが、見事に形の違うクッキーの缶みたいな秀作。
Junkyard Shaman / 残心
フィンランド生まれ、今は大阪に在住しているという作家のドローン・アルバム。長い演奏時間の割に起伏が控え目なので、印象は気分に寄りけり。瞑想時に再生してみよう。
Abe bow/ from Setagaya to Everywhere
コーネリアスの『Point』っぽいジャケットだと思ったら、理想がそうである旨が多弁なセルフライナーに書かれていた。音もそれらしいといえばそうである、情報量の多さに自覚的な、クロスワード的音響ポップ。最後のサティ風インストもいい。自分で書いておいてなんだが、コーネリアスっぽいの一言で済ましてはいけません。
ドゴ / TV, dramatic
シカゴ在住とのことだが、情報がなさすぎるため真偽が定かでない。日本語によるラップというか朗読なのも相まって、素性も意図も不明。よれまくったビートも機材なのか人力なのか、聴いてるうちによくわからなくなってくる。時勢にそぐわぬ能天気さが〇。CDも自家通販してるみたいッス。
POLTA / 失踪志願クリエイターズEP、『ちょっと』ほか
POLTAの楽曲のリミックスとライヴ音源を収録したEP。ライヴのMCがスクービー的で、めっきり耳に目にしなくなった光景が恋しくなった。「ちょっと」はうすらび「ラジアルループ」と共に今年の新曲で一番の名曲です!!
Hiroshi Watanabe / Takachiho
ヒロシワタナベが高千穂に伝わる民謡をベースに書いたエレクトロニック・ミュージック。従来の四つ打ちでないところや声のフィーチャリングが、5鍵ビートマニア時代に書いていた曲を思い出させてくれる。たまにはこういう路線もありかなあと。
John Hubbard, Christoph Heemanne, Andreas Martin / Vogelscheiß Und Seine Verrückten Kröten
『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』でも協力してもらったジョン・ハバード氏が、80年代末にドイツはアーヘンを訪れてHNASの二人と録音していた音楽とのこと。初期United Dairiesが好きな人たちが作った音楽といえばいいか。かなりイイです。デジタルを買ったが、LPとCDも版元のArt Into Lifeからリリースされている。
渚ようこ / 渚ようこmeets阿久悠~ふるえて眠る子守唄~
Apple Musicに戻ってきてしまい、ザ・ヘアや渚ようこをひたすら再生。もっとも、ここにはない音源も多いのだけど。これは2004年に出てた阿久悠トリビュート企画らしく、プロデューサーは英国人エンジニアのゲイリー・スタウトという人らしい。全然知らなかった。2分弱という音ゲー収録曲ライクな尺の短さとハウス調が素敵な「ハッピーじゃないか」が大好きだ。
Abe Masatake, Yoshiki Ichihara / Live at Ftarri, October 3, 2021
水道橋Ftarriで行なわれたライヴ録音。シンセとベースによる絡み合い、と呼ぶには分離した演奏に聞こえるが、片方が弧を描いてもう片方と合流することで生まれる展開が確かにある。水滴のような音から野太いノイズまで、シンセが頑張るセカンド・セットが〇。ジャケットは岡川怜央さんが描いている。
Nurse With Wound / Nefarious Vol.1
NWWのファースト別ミックス(というかテープへコピーする際の失敗)音源の再発CDに、ステッカー、缶バッジ、アルバムジャケットのプリントがついてくる豪華ボックスセット。ステッカーやプリント、バッジはコピーによって内容が違うようだ。
HONDALADY / 303 (2021 Remaster)
ホンダレディの過去作がリマスターされてストリーミングなどで配信されていた。アルバム単位ではこれと『SAMPLING MADNESS』ばっかり再生している。ラストチューンの「二九、三十」みたいな曲を30歳の頃にちゃんと作っておくと財産になるなあとため息が出る。スマーフ男組もだけど、機材をいじりたくなる気持ちにさせてくれるバンドだ。
Satoru Sekiguchi / Yoncrete Eu!
通り一遍のヴェイパーウェイヴ的に見せかけて、そうでない複合的なテイストが嬉しくなるインターネットフレイヴァー。翻訳ツール頼りの変な日本語でなく、『ねぎ姉さん』的散文の世界だ。
KODAMA AND THE DUB STATION / もうがまんできない / STRAIGHT TO DUB (DUB VERSION)
見逃していたのが痛かった12インチ。『かすかなきぼう』収録曲の別バージョンと、じゃがたら楽曲のこだまさん本人歌唱によるカヴァー。歌が終わってからの展開にうれし泣き。
nostola / 頭の中で
過去作も一緒に買った宅録作家のシングル。ギターの鳴りにこだわりがあるのか、最低限の手数で音の幅を広げようとしている印象を受けた。新しい曲になるほどミニマルな構造になるのはちょっと早くに達観しすぎな気もするけど、あくまで試行錯誤の途中に過ぎないのだろう。盤でも欲しい。