メモです

ツ イート

Nurse With Wound / Trippin' Musik
昨年に3LPBOXで出た新作で、30枚ほどのテストプレス(一点もののアートエディション)も出ていたが、あちらは即完売。後ほどCDも出るらしい。今はプレーヤーがないので音は確認できないが、先出で発表されていたシリーズに近いリズミックな内容だと予想する。
Organum Electronics / Organum Electronics
オルガヌムことデヴィット・ジャックマンの新作はオシレーター経由のノイズで埋め尽くされた意外な内容。ホーリートリロジーや前回の超ストイックな音楽から一転して、貫禄すら漂うオールドスクールなノイズに辿り着いた事実に驚くばかりだ。もはや作品の質ではなく、どう生きるかに注目がいく御仁であるね。
Masstishaddhu / Anthropological Field Recordings For The Dispossessed
United Dairiesからも出していたTNB周辺のグループ、と思いきやメンバーが共通している別プロジェクトの蔵出し音源。名は相変わらず読めない。CD2枚におよんでエスニックな楽器とザラついたノイズが重なり合うサイケデリック・ラーガが放たれる。ジャケットが謎だけど確かに音とピッタリだ。
Julian Cope / John Balance Enters Valhalla
ジュリアン・コープがひっそりと出していたジョン・バランスに捧げるアルバム。音はフォークからエレクトロニック、交響楽のつまみ食いと多彩でコイルの音楽が掠めていったものをなぞっている、と言われればそうなのだが、あっさりしすぎている印象も。とはいえ、立派なファンアイテム、お布施の域であることはリスナーならば承知のことであろう。
BUDDHA BRAND / これがブッダブランド!
D.L.逝去後に発見された蔵出し音源集。もっとボリュームがあると思っていたが、さすがに全てを残ったメンバーの独断で出すのは難しいらしい。ボツにしただけあって特段驚くようなところはないのが正直なところだ。「女体の狩人」はレア盤として有名だったが、この度めでたく収録された。元ネタは何?
Robert Haigh / Black Sarabande
再びUnseenからのリリースで、ピアノ以外の音も目立ってきたことから、サイレンから出す時とは異なるアプローチを試みているのだろう。その控えめでありつつも確固として存在するハングリーさが信頼に値する理由の一つである。過剰に対する音楽は、それよりも力強い。
Valley Hi! / Valley Hi!
台湾のバンドによるデビューEP。ガレージ、サイケ、クラウトをまたぐサウンドは自分にとって一つの評価軸になっているものだが、近年ここまで直球に来られた例はなかった。ゆらゆら帝国などの先達の名を挙げるのは簡単だが、現在形のバンドゆえに咀嚼の対象はもっと別の方角にもいるはず。愛聴!
Andrew Liles / Do the Get Older?
フランク・ザッパの誕生日にリリースされたEP。NWW的なキッチュさを持つコラージュで、アンドリューの作品としてはご無沙汰なような気がするが、あまりの多作ぶりにもはやわからなくなっている。シンクラヴィアも使われているようだ。ジャケットはバブズ・サンティニ。
Ocean Youth Club / Divide self
バルセロナの作家とコリン・ポッターのプロジェクト。アナログとストリーミングという時世らしさのあるリリース。SND~ラスター・ノートン的ビートとグリッチがクラウス・シュルツェ直系のエレクトロニクスに乗っかり、めちゃくちゃ気持ちよい。絶え間なく鳴り続けているのに穏やかになれる矛盾したトリップ体験。
ELECTRIC SEWER AGE /
Contemplating Nothingness

ダニー・ハイドがスリージーらと着手していたプロジェクトで、コイルの延長線上にあるサウンドではあるのだが、いかんせん何かが足りない。それはジョン・バランスなのかもしれないし、作曲そのものに差異があるのかもしれない。昨年にCDが出ていたようだ。
CQ / NAUTILUS ~恋する潜水艦~
まさかと思ったが確かに初のソロアルバムだった。2013年ごろからMutaと始めていた企画が原型になっているようだ。トラックとネタ使い、そして今や恐竜のような存在感を放つ下ネタリリックと良くも悪くもオールドスクールなのだが、ストーリーらしいものを持たない散文あるいは寝言のようなリリックは流石。最後の最後でしんみりさせるのは年の功か。「Go For It」の元ネタって何?
JAGATARA2020 / 虹色のファンファーレ
江戸アケミの30周忌ということで録音された新作。一バンドではなく運動体とOTOが話していたように、より抽象的な受け止められ方をされており、これが自分にとっての「80年代」や「昭和」と重なる。曲そのものに関心が行かないのもこのせいだろうか?
石原洋 / formula
20年以上経ての新作ソロ。ゆらゆら帝国育ちの俺からすればこれこそがシティポップよ。頭の中で歩いた都市、そこで鳴るサウンドスケープによってもたらされる好奇心とノスタルジアを引き出された。これはいずれ長い文を書く。
やくしまるえつこ / アンノウン・ワールドマップ
砂原良徳リミックス目当てでプレイ。相対性理論よりもこのコンビで一枚アルバムを作って欲しい。
Felix Kubin & Hubert Zemler / CEL
フェリックスとドラマーのハーバートのデュオ。いかにもドイツな電子音にジャングルのようなリズムが絡み合う1曲目から最高。全体的にクラフトワーク(デュッセルドルフだけど)級のシンプルなフレーズが反復する心地よさに満ちている。シンセと生ドラムといえばDAFなんだが、あれにはない朴訥さがある。それはベルリンらしさと言ってもよいのかな。
KOPY, Tentenko / Super Mild
シュテファン・シュナイダーのレーベルから出たスプリット・アルバム。ドイツ風の武骨なエレクトロニクスとビートだが、ロウハウス的せわしなさが味になっている。
Tenetnkoサイドのエレクトロニクスが絶品!!
Othon / The God within
オソンが珍しくフルアルバムをリリースしていたが、彼のルーツであるピアノ・ミュージックになっていて少しびっくり。クラブ風の音楽性への反動かと思いきや、ハウス調にアレンジしたリミックスまで出していて、さすがの一言。
Mirco Magnani+Ernesto Tomasini / MADAME E.
エルネスト・トマシーニがマダム・エドワルダをテーマに書いた詩に、ミルコ・マグナーニによるアンビエント風のピースやピアノが乗る。晩年のコイルが描いていた世界がここにもあったのか。昨年に出たマグナーニのエレクトロニックなアルバムも素晴らしかった。2017年、リアルタイムで知っていたら間違いなく最高の一枚に挙げていただろう。
Michael Cashmore /
The Doctrine Of Transformation Through Love II

昨年に続いて出たエレクトロ路線のソロアルバム。どんどん2010年代のシンセウェイヴっぽくなってて驚き。リトル・アニーがゲストボーカルで参加している。
SEGUE-4 /
通俗奇跡のふる夜に [A Night of Common Miracles]

個人ではノイバウテンの研究を続けている患者mono氏が始めたユニット。書くのも野暮だが、平沢進のヴァイブレーションが人に届いている実例をまともに目にした。初めてのことかもしれない。聴いたみなも書けよ歌、歌えよ詩!!
Nine Inch Nails / GHOST V & Ⅵ
コロナ騒ぎを受けてNINが無償で公開したニューアルバム。インストゥルメンタルで、アンビエント的なタッチが不気味なまでに世相と重なっている。コイルのような旋律が聴こえるのはファンとして嬉しい。バリエーションも豊か上に、位相からパン振りまで凝っているからイヤホンで聴くと発見多し。
Sinister Senile / Musique for Interstellar Travel
NWWにも参加したことがあるケンサク・ニシザト氏の新しいプロジェクト。サイケデリック要素強めのバトルズ、あるいはクラブミュージックにハマったグラウンドホッグスだ。90sのあらゆるロックな好きな人に捧ぐ。
Hans-Joachim Roedelius / Tape Archive Essence 1973-1978
新作も出したレデリウスだが、同時に出たこの発掘音源の方がずっと良かった。イーノからの影響と断じるのはレデリウス(とメビウス)を過小評価することになるだろう。クラフトワークと並んでポストパンク時代のアーティストを刺激したエレクトロニクスの重要資料。
Shota Hirama, former_airline / 結論ライツ
2018年に限定リリースされたスプリットシングルがデジタル配信。shotahiramaによるNWW的コンクレートと、fromer_airlineのクラウト遺伝子バリバリのエレクトロニクスが醸し出すデカダンス。
V.A. / Watch & Pray - Five Years of Studious Decrepitude
House of Mythologyレーベルがここ5年に出した音源から選出されたコンピレーション。半分近くがデヴィット・チベット関連のプロジェクトであるところに、氏とレーベル間の信頼関係がうかがえる。UlverやZuもいて、ブラックメタル実験派からリチュアル・ドローンマニアまで楽しめること請け合い。NYP。
JG Thirlwell & Simon Steensland / Oscillospira
JGの新作はサイモン・スティーンズランドとの共作。なんとモーガン・オーギュレンが全編にわたってドラムを叩いている。スティーズンランドのキャリアには明るくないが、少なくともJGの血肉であるズール、レコメン系、ホラーまたは怪獣フィルムの音響が高次な融合を見せているのは確かだろう。流石のストラヴィンスキー好きというべきか、追いかけるのが大変な拍子にはじまる複雑な展開も、カットイン的な切り替わりが支えるハリウッドばりのダイナミズムによって難解さが中和されている。期待をはるかに超えてきた!!
Freetempo / Imagery
叩き売られていたので保護。Scoobie Doが参加している曲目当てだったが、当時リリースされた12インチに収録されているものだった。あれでしか聴けないと思っていたのだが・・・。2000年代の音と尋ねられると、こういうピアノハウスが真っ先に浮かんでしまう。
banetoriko / 昇り水
妖怪ノイズメーカーことbanetorikoの新作は初期のAUBEにも通じるミニマリスティックな音響。官能的な音色とさえ呼べるドローンは、ノイズ=雑音というラフな認識から遠いところにある。打って変わってパーカッシヴになる後半もかっこいい。
Leo Okagawa / Ulysses
あちこちで録音したフィールドレコーディングを繋ぎ合わせたコラージュ。岡川氏の作品では珍しく具体的なサウンド(お祭りの音とか)が使われていて、ジョイスの小説をテーマにしたのも頷ける一人称視点の作品となっている。主観的に比喩されることを避けるように断片的な構成になってはいるのだが、それさえも乗り越えて「早く外に出て遠くを歩きたい」と思わせてしまうコロナ騒ぎの罪深さ。後半のノイズ・コンクレート地帯は氏の味が出ている。
Soft Power / BRINK OF EXTINCTION
3年前に新譜を発表した時からファンになったヘルシンキのバンド。カンとムード音楽を融合させたような毒気のない演奏が魅力で、今作はそれに磨きがかかっている。ラウンジの香りのせいか、JGサールウェルの音楽ともリンクしているような。60年代風のジャケットも含めて、ノスタルジックな印象を抱いてしまうのは避けられない。
V.A. / Hard To Be A Killer - A Tribute To Ralph Gean
カルト的なんてものじゃない、超局地的な人気を持つカントリー歌手、ラルフ・ジーンのトリビュート。ボイド・ライスやリトル・フョードルら米国サバービアの奇人たちが集結。びっくりしたのはボイドが日本語で(約20秒)歌っていることだ!
Aksak Maboul / Figures
長い時を経ての新作。室内楽のオーガニックな面はもとよりだが、やけにステレオラブみたいになったなと思ったら本当にレティシアが参加していた。浮世離れというかフィクション性の強い世界観なのに、どうしてか鼻につかない。国内盤にはインタビューを収録したライナーが付いてきて、レコメン系ネットワークの豊潤さが垣間見える。
Pale Cocoon / 繭
カルト的な人気を誇っていたバンドのカセットが再発。10インチ『青空の実験室』などの音源も今後リリースされるのだろうか。ニューエイジ文脈で触れれば甘美とすらいえるサウンドだが、私的には体験してこなかった80年代の薄気味悪さが強く出ていて、不安にさせてくれる音だった。じゃがたらやNOISEにも同じことがいえる。
former_airline / Nu Creative Dreams
ダブ生活を標榜する作品だけあって、とにかく鳴り重視の曲が揃っている。コンクリートで囲まれた空間の残響を想像すると、ライブハウスでこそ真価を発揮する音楽とも思う。早くそんな日が戻って来るといい。
YoshimiO x 和泉希洋志 / Live In Temple Inryo
YOSHIMIさんと和泉希洋志氏のデュオ。即興をモヂュラーに通して出されたエレクトロニクス、いや音響と呼ぶべきか。ララージとの共演というからオーガニックなドローンがずっと続いているものだと早とちりしていた。バリバリにサイケデリックです。手作りパッケージは流石の和泉氏といったところ。
分水嶺 / ファーストギグ 08112019at 七針
2019年のライヴ録音で、元の音源に環境音がミックスされたリミックス音源も同時収録。白眉は後者で、特にカラスの鳴き声とギターファズがコラージュされた1分弱の時間が頭から離れない。ピアノも歌声も軒先から聞こえてくるかのよう。そこにいる人はもういないような、ずっと昔の記録であるかのような、そもそもライブとはそうであるような?ともかく、かつての日常が恋しくなってしまう一枚だった。
テニスコーツ / Changing
自分たちで用意した音楽ストリーミングサービスを発表すると同時に投げ込まれた、2020年代リアルヒップホップ・・と書くには照れ臭いため、ここは「うた」と表現させてもらう。怒りと絶望が呼び水のぼやき・つぶやき・日本語ラップ。リリースと同時に聴きたかったぜ。俺たちもまずは詩を書こうじゃないか。
Scoobie Do / Bootleg-tic Girl 12
昨年のツアーから収録したライヴ音源。日本的ロックバンドしぐさに磨きがかかりすぎたせいか、思わせぶりポエトリーな歌詞から、シティポップに目配せしたサウンドまで、このコロナ時代では不格好この上ないのが実情。しかし、ここからバンドがどう生き延びるか気になるのも事実なので、どうなろうと付き合う。通販限定。
irr.app.(ext.) / Inception & Silence Undivided
マスターテープが焼かれてしまったエピソードでも有名なNWWの4枚目をライヴ時のメンバーでもあるマット・ウォルドロンがリワーク。実は97年の時点で出来上がっていた音源らしいのだが、ついにお披露目となった。オリジナルをしっかり聴いている人には差異がハッキリとわかる構成になっていて、NWWマニアには嬉しい(?)。もちろん未体験者にも推奨できる。
Jim O'Rourke / Shutting Down Here
EメゴとGRMとの提携レーベルから出たアルバムというか30分弱の1曲。特定の録音を新しい音へと変化させていくGRM直系の伝統的なミュージック・コンクレートにだが、コラージュ的に描かれるダイナミックな音変化が物語性とさえ呼べる展開を生む。NWW『Homotopy to Marie』を想起してしまうのは、あちらもGRMを筆頭にした電子音楽古典がルーツであるからか。修辞的に表したくなる魅力には欠けるが、そのドライさがジムさんらしさだと思っている。
GRIM / Hermit Amen
今回もすごいGRIM。メロディの比重が高いだけあり、ノイズとのコントラストがますます顕著となった。避けられぬ退廃の下で生きるための、サバイバルのための音楽だ。強気にニューエイジと呼びたいもの。
Noveller / Arrow
昨年はイギー・ポップのアルバムでも作曲していたノヴェラーが、トレードマークのギター(音)から離れたドローンになっていて驚き。JGサールウェルのゾルドクスにも関与していたように、作曲の器としてのエレクトロニクスに凝っているようだ。ストイックに響きのみを重視するわけでなし、展開で見せてくるところもゾルドクス的。音の発生源が何なのか気になってしまう、ピュアな好奇心に支えられた一枚だ。
Einstürzende Neubauten / Alles in Allem
時勢に沿った新曲MVが面白かったノイバウテンのニューアルバム。ジャケットから想起できるように、演劇またはオペラ、とにかくステージの上で繰り広げられる非現実群像劇のサウンドトラックといった趣。空白も演奏の一部といわんばかりの「間」を重視した構成からもそんな印象を受けた。ボウイのようにオペラを書くことが一つのゴールだろうか。歌詞対訳付で国内盤は出ないかな?
Matt Elliott / Farewell To All We Know
毎回リリースを見逃してしまうマットの新作。前回ほどではないが、アコギのナチュラルな鳴り方を大事にした作風は、空間的であることに特化した音楽への反抗なのか自己との線引きなのか。昨年のTEFと並べて聴けば、意図してのデザインであることは明白。
Current 93 / Horsey
House Of Mythology内に設けられたC93復刻専門レーベルのリリース第一弾(同時に2000年の『Sleep Has His House』がある)。88年後半の英国と日本で録音した音源をパッケージしたものの再発で、ここに未発表音源が大量に追加されている。白眉は89年の日本公演からの1曲で、これは今までお披露目になっていない新宿アンチノック公演での演奏(のはず)。他の曲も半分が来日時に静岡で録音された貴重な記録だ。オリジナルのジャケットはスティーヴン・ステイプルトンの実子・リリスによる馬の絵だったが、再発にあたってTibetによる「それらしい」絵に差し替えられている。
Momus / Vivid
前作同様、ベルリンの壁近くで拾った(?)アコーディオンをフィーチャーした歌曲集。COVID-19のせいで自宅にこもる生活が普遍的になった今、日々録音と撮影に励んでいたモーマスの存在感が一段と増す。軽症とはいえ罹患していたようで、その経験含めてか、これまで以上に退廃的な歌詞が目立つ。日本の民謡的な旋律がわずかに残っていて、これがまた歌に合っている。7月には自伝も出版されたようだ。
Shirley Collins / Heart's Ease
前作から4年経過してのニューアルバム。「素直に歌えるようになった」と90を間近に迎えた歳でいってのける姿勢に脱帽。ドリーとのデュオ時代の再演からオリジナル曲まで収録されており、バックを務めるCOIL組(オシアンとミヒャエル)がCurrent 93の時と同じく良い仕事をしている。時勢をも無視した超然さが、どうしてか郷愁を誘う。
IANNIS YOAKE / omoide/memorie
コリンズのような欧州フォーク先達がもたらす郷愁の感覚は、やがてネオフォークと呼ばれる世界にも継承されていくのだが、決定的な違いに北欧神話に基づくヨーロッパ主義を筆頭とした超個人的世界観があった。しかし、この日英人デュオの音楽は、コロナ以前の「現代」、そこにあった個人の生活を儚む(=現在の混迷に狙いを定める)ことで、自身を取り囲んでいる世界を逆説的に描き出す。このパーソナルな視点こそ現代のネオフォークたる所以ではないだろうか。同時にネオフォーク自体が元来そういうものであるはずだったと、トニー・ウェイクフォードの参加を見て思う。
Christoph Heemann /
perception and association
なんとクリストフ・ヒーマンがbandcampをオープンし、過去の音源を散発的にアップロードし始めた。アンドリュー・チョークと並んでデジタル・リリースが似合わない御仁だけに衝撃。でも本作のような希少音源が手に入るのは嬉しい。初出は2015年のCDrで、今年になってRobotからLPがリリースされた一枚。
Little Annie / A Bar Too Far
おなじみポール・ウォーフィッシュとのデュオによる新作。NYPだが収益はBLM運動へのサポートにあてられる。歌声もちょっと似てるが、ニコのように貫禄たっぷりのシャンソンだ。マーク・アーモンドの新作と並べて聴きたい。
Bobbie Watson and Jon Seagroatt / Mortal Tongues EP
自宅録音のプロジェクトに招かれたことがきっかけで制作された音源。再始動後コーマスの中核を担うジョンが大々的に作曲している。2015年に連発されたプロジェクトのように、とにかく古典的かつハイブリッドな音楽を生むコンビなのだが、いかんせん活動に波がある。ボビーの歌声も相変わらずきれいだ。
Andrew Liles / Duly Noted
とにかく多作でムラがあり、それが愛嬌にもなっているライルズの新作は、一音につき一楽器(音が鳴るもの)というルールに基づいて作られた意欲作。貫徹するには難しそうなアイデアだが、音の残響とハーモニーを重視したことが功を成したのか、立派な(?)音響作品になっている。そして、かなりスゴイ。音を順番に鳴らしているだけに聞こえると同時に、タイミングが計算され尽くしているようにも聞こえてしまう。演奏というよりは巨大なシンセサイザーがひとりでに動いている感じだが、それがどうしてか有機的なのだから面白い。パンク版GRMかも。
Monastery / Dream Weapons (Vol. 1)
COILに捧げたアルバム。音を聴けばうなずける、自然崇拝エレクトロニカ。こうした音源が2020年になっても同時多発的に作られるところが彼らの影響力の大きさを物語る。
SEGUE-4 / i/sol
先行で公開された曲を含めたEP。ゴシック~インダストリアルなタッチの曲とリリカルな詩世界は、今や、というか最初から欺瞞的ですらあったシティポップ群よりも優しく響く。「夜会」のように沈黙(生活または環境音)が挿入される曲にハズレはない(ビョークとか)。NYP。
Kowalski / Schlagende Wetter
ジャーマン・ニューウェイヴの中でもマイナーなバンドであるコワルスキの復刻。コニー・プランクがプロデュースしたシングル曲もボートラで収録。DAFよりもロック志向で、ディスコ調でないビート重視の音楽はきたるEBMの予兆か、すでに登場していた同類への合図なのか。労働者というコンセプトというかアイデンティティからもテスト・デパートメントを連想。
Jon Brooks / Applied Music Vol.3
Clay Pipeでも新作を出したばかりのジョンが自分のレーベルからも連続リリース。で、これはその一つ。ニューエイジ再評価の流れとは無関係の、タイムレスな音楽としてのイージーリスニング。
Eyedress / Let's Skip to the Wedding
結婚して人生の軸が自分から家庭へとシフトした意気込みがジャケットからも伝わってくる。トリップホップ色強い楽曲がネオアコ風のメロディアスなものとなり、少々躁的な印象も。つまり好きなタイプだ。
Michael Rother / Dreaming
アナログとストリーミングだけという今どきなリリース形態だった。女性ボーカルをフィーチャーしており、最初はちょっと慣れなかったが、後ろの音はハッキリとしたミヒャエル印。Neu!の3枚目が好きな人が特に喜ぶ。
U96 & Wolfgang Flür / Transhuman
ウォルフガング・フルーアが久々に出した音源。コラボレーションがメインなのは変わらないし、結局クラフトワークなところも然り。タイミング的にフローリアンの死に触発されたわけではないが、これも縁か。
V.A / Avenue With Trees - A Second Language cornucopia + Secondaries
Clay PipeのメンターともいえるSecond Languageのコンピレーション。アートワークがなんとなくクレプスキュールっぽいと思ったら、もろにそういうコンセプトだった。1曲目のドゥルッティ・コラム風ギターを聴いてもらえればわかるはず。荒れた時世に対抗する、力強い嫋やかさ。是非フィジカルで!
岩本清顕 / SOUGI+
40年前に残された音源を復刻したもので、『都市通信』に参加した「美れい」のメンバーであったという。リズムボックスがフル稼働のコールドウェイヴで、自分が80年代の日本に抱く暗さが凝縮されている。自らの感情を爆発させるための起爆剤としてのジョイ・ディヴィジョンのカヴァーも最高。千紗子と純太によるリワークや美れいのライヴ音源付。
Leo Okagawa / Some Magnetic Phenomena
エレキギターとペダルだけで作られた音響作品。楽器というかノイズ発生源としてのギターと格闘しているうちに、作り手の意思が取り払われたかのようなストイックさと、ボリュームのつまみを上げたくなる得体の知れなさが残った。
Oneorthorix Point Never / Magic Oneorthorix Point Never
そんなに入れ込んでないけど、耳に入る機会こそ多いOPN。架空のラジオというコンセプトも、偏在する音楽(薬局のMIDIから流行歌まで)へのアイロニーかつ、そのパンク版として機能している気がする。3曲目がいい。ジャケット最高!
Andrew Chalk / Incidental Music
50本限定のカセットだが、ほぼ同時にbandcampでもデータが販売されていた。買う人はブツで買うだろう。データとフィジカルの差異にこだわるからこそ、作り手の事情を察するにもファンの務めなり・・・勝手に言ってるだけです。
former_airline / Postcards from No Man's Land
過去の作品と比べて音色が鮮やかに、心地よくなった。パンデミック下という環境がそうさせるのか、音に影響が出たのか。演奏する者と聴く者の距離の近さはリアルタイムな音楽の証明か。デジタルで購入したこともあり、シームレスに進んでいく、その展開にも引き込まれる。
SUTCLIFFE JUGEND / The Deluge
毎回言われている気もするが、今度こそサトクリフ・ユーゲントとしてはラストアルバムらしい。もう壮絶、今年聴かねばならない音楽の一つだった(でもGRIMの方が上かな)。CDがなかなか買えずにモヤモヤしていたが、この度データで購入。
Masstishaddhu / Shekinah
United Dairiesから出たアルバムのカセット再発。TNB周辺のプロジェクトとして知られているが、れっきとした別個のグループであり、そこにルペナスたちが関与したといったほうが正しい。UDにしては珍しい密教的サウンドで、ラーガ風のノイズは今でも強烈に聞こえる。
日本のadvaita recordsからリリース。
YURIKO MUKOUJIMA / SOLO
シェシズやタコ、Phew『万引き』などで演奏しているヴァイオリン奏者のソロ。ほぼすべての曲が即興で、声やピアノも本人によるもの。声もノイズも身体の一部と言わんばかりの剥き出しの音楽。安易に言葉にできるわけのない、人の心と頭の中。
Scoobie Do / Alive Song
配信限定シングル。ライヴが糧だったバンドにとって今ほど辛い時期はないだろう。そんな中で歌われる、空虚でさえある未来への歌。311後の数年間に出した曲を聴いた時もこんな気分だった。歌うまでもなく「生きることに取りつかれている」者たちによる(たちに捧げる)、まじない+呪い=ロックンロール。
透湖(BOKUGO) / 荷物は背負ったまま
『SOUGI』や分水嶺、向島ゆり子、世代から接点までバラバラなはずなのに、どこか通じ合っているような音楽が集う。今はそんな世界なのか。弾き語りの本作は、上に挙げた三者よりも孤独かつあっけらかんとしている。確かに起きたことを歌っているとしても、哀しいくらいに独り。ピアノ曲を収録したCDrも同時発売。
COIL / Sara Dale's Sensual Message
Threshold Archiveシリーズとしても蔵出しされた映像作品へのサウンドトラック。スリージーのCM仕事にも近い、ラウンジ風の口当たりの良さがちょっと意外だ。とはいえ無難なリリースであることは確か。デレク・ジャーマンに捧げた「Theme of Blue」シリーズも収録されている。ジャケットはバブズ・サンティニことスティーヴン・ステイプルトンの描きおろしで、この絵は2017年に氏の家を訪れた時に見かけた。
Shuta Hiraki / Circadian Rhythms Vol.1
作者が抱える概日リズムに基づいて作られた実験記録とも呼ぶべき内容。メソディカルに生み出されていくモアレな感触は心地よくないが自然なままだ。コロナ禍で内省的な気分になったせいなのか、自分自身からテーマを見つけ出したアイデアに親近感のようなものを抱いてしまう。個人的にはイヤホン推奨。
Scoobie Do / 同じ風に吹かれて
先に配信されていたもの含めた新曲2つと、配信ライヴからの録音を収録したCD。観客の声が入ってないと寂しいのは否めないが、コヤマの「やりたいやつは何があったってやるんだよ」の言が現実に気付かせる。日和見的に聞こえる歌詞も、自分には諦念に溢れている気がして。どうなることやら...。
Nurse With Wound / Cabbalism Vol.3 &4
限定版として出ていた『Cabbalism』の追加音源と、コリン・ポッターによる新規テイク(?)が入ったCD。徐々に様相を変えていくドローンで、NWW的サイケデリアが堪能できる。上記の限定版を買っていなくて得した。それにしてもジャケットがいい。
El Varerie / I D A
数年前に購入した作家のbandcampアカウントを覗いたら、新しい曲が追加されていたので購入。ウィスパーボイスとパーカッションによる宅録だが、空間系エフェクトが控えめなこともあって本当に部屋で歌っているだけのような朴訥さがある。たくさんあるようで、実はそれほど出会わない。
Leo Okagawa / Caprice
ノイズから具体音含めた音群が、映画のように切り替わる展開はもはやお馴染み。2曲共に激しいクライマックスを伴うのはコンセプトか作家の手癖なのかわかりかねる、多弁でないところが好きだ。
Sigur Ros / Odin's Raven Music
2002年にレイキャヴィクで開かれたオーケストラ編成の演奏が突然音源化。今までされてなかったのが不思議とはいえ、これは嬉しい。ヒルマー・オーン・ヒルマーソンも参加。
Salami Rose Joe Louis / Chapters of Zdenka
前作と相対するダークな一面を描いたという新作。針飛びしてるようなループと奇妙なリズムのビートがより顕著となり、一時期のNWWにも近いサイケデリアを持つ。リンゼイは自分にとってのステレオラブ、モンド・ミュージック、そしてヒップホップ。
Colin Potter & Phil Mouldycliff /
Avian Catalogues
長期間にわたって集めたフィールドレコーディングを素材にした音響作品。アルヴィン・ルシエ的な反復の利用ではなく、一マテリアルとしての鳥の声にこだわるディレクションはNWW的だ。
Snakefinger / NEW​!​!​! Snakefinger - Who Do You Love (B​-​Sides & Rarities)
スネークフィンガーの蔵出し。まだ手付かずの音源がこんなにあったのか。鳴りだけでわかるこの人だけのギターが心地よい。
Anthony Moore / Out
オリジナルジャケットをひっさげて再発されたソロアルバム。レコメン系のイメージにある複雑なポップ、それが十二分に発揮された作品。CDの方を購入した。
COIL / Musick to Play in the Dark 1
名作が念願の再発。『2』もすぐに出るものだと信じている。ニューエイジやIDMに分類されてもいいし、どちらでもないとも言えてしまうCOILだけの音楽だ。「Red Queen」はやっぱり名曲。
Galapagos Oxyxpxc Show / Japonica Anarchic Value Set
ダムダムTVが(なぜか)名前を変えて20年ぶりの新作を(なぜか)リリース!!今年最重要イベントにして最高にアナーキーな一枚だった。公文所廃棄だのなんだのし放題な政権下に生きてる身としては、(バグりながら)事実を提示し続ける姿勢にパンクを感じる。必聴!!!!
V.A. / 聖みろくさんぶ
静岡は浜松にあるおでん屋「みろくさんぶ」を拠点に活動するバンド/作家たちを収録したコンピレーション。帯から何から80年代のインディーズへの愛着と、それを選び続ける情熱をパッケージしたサイケ盤。新しいとか古いといった迎合よりも、まずは自分の血肉が何なのか知ることが大事だ。三島の世界の断片が歪に、しかし確かに重なるKonori spや、変わる世界の下でも変わらない土臭さであろうパワー・オブ・プレコの歌とギターが重く響く。ソナーはこれまた別格というか別の地平からやってきたような圧あり。
Swans / Children of God
やっと復刻された名作。2010年代以降の作品と比べたら見劣りするところもあるが、ジャーボーたちがいた時期の作品はやはり独特。
Cabaret Voltaire / Shadow of Fear
リチャード・H・カークのソロになったキャブスの新作。カークのソロでも顕著だった「80年代までの」クラブ・ミュージックへの愛着が発揮された秀作。無駄のないスウィート・エクソシストに回帰しがちだが、デトロイトテクノ風の叙情を残した本作(特に後半)も悪くなかった。クオリティ云々より現代に新作を出していることの方が重要だ。